キャリア理論05|エリクソンの理論.3

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キャリア理論05|エリクソンの理論.3(個体発達分化①成人前期まで)

個体発達分化とは?

エリクソンの心理社会的発達理論における「個体発達分化」とは、個人が人生の各段階において、社会的役割を積極的に獲得し、それを通じて自己をより一層成熟させていくプロセスを指します。これは、青年期に確立されたアイデンティティ(同一性)を強固な土台として、他者との関係性や社会への関与を深めることで、自己をさらに発展させていく動的な過程です。

簡単に言えば、自分とは何者かという「軸」ができた上で、社会との具体的な関わりを通じて、その軸を太くし、多様な側面を広げていくイメージです。

特に成人前期は、青年期で確立されたアイデンティティをもとに、友人、恋人、配偶者、職場の同僚など、多様な社会的・職業的な関係性を築いていく非常に重要な時期となります。この時期の経験が、その後のキャリアや人生の満足度に大きく影響を与えることになります。

個体発達分化と青年期

エリクソンの理論において、個体発達分化のプロセスは、青年期に形成されるアイデンティティと密接に結びついています。青年期は、まさにこの個体発達分化が大きく進展し、その後の成人期の社会的な役割獲得に向けた重要な準備期間となるからです。

青年期の発達課題とキャリアへの影響

青年期の主要な発達課題は、繰り返しになりますが「アイデンティティ vs. アイデンティティ拡散<混乱>」です。この時期に若者は、身体的な変化だけでなく、精神的、社会的な大きな変化に直面します。

自己認識の統合: 子ども時代に培ってきた様々な自己の側面(親からの期待、学校での役割、友人との関係性など)を統合し、「自分は何者か」「何を信じ、どう生きていくのか」という一貫した自己像を形成しようとします。

多様な役割の試行: 学生としての役割に加え、アルバイト、部活動、ボランティア活動などを通じて、様々な社会的役割を試行錯誤します。これは、将来の職業選択や社会での立ち位置を探る、まさにキャリアの序曲とも例えられます。

価値観の確立: 自分の興味、能力、そして何よりも「何を大切にして生きていきたいか」という価値観を明確にしていきます。この価値観が、将来の職業選びや働き方の基準となります。

青年期における「個体発達分化」の意義

この青年期にアイデンティティが確立されることで、個人は社会の中でより主体的に生きる準備ができます。個体発達分化の観点からは、以下のような意義があります。

明確な自己の確立: 様々な情報や他者の期待に流されることなく、自分自身の軸を持てるようになります。これにより、将来のキャリアパスを主体的に選択し、困難に直面してもブレない基盤が築かれます。

社会との接続点: 自己のアイデンティティが明確になることで、社会の中で「自分がどの役割を担いたいか」「どんな貢献ができるか」という具体的な接続点を見つけやすくなります。これは、就職活動における企業選びや職種選びに直結します。

成人期へのスムーズな移行: 青年期にアイデンティティを確立できた人は、次の成人前期で直面する「親密性」や「キャリア形成」といった課題に対して、より前向きかつ安定的に取り組むことができるようになります。

このように、青年期におけるアイデンティティの確立は、単なる心理的な成長にとどまらず、その後の人生、特にキャリアにおける個体発達分化を強力に推進する基盤になります。この時期にどれだけ自分と向き合い、多様な経験を積むかが、その後のキャリアの幅と深さを決定づけると言っても過言ではありません。

成人前期~キャリアの深化~

成人前期は、青年期で確立されたアイデンティティを基盤として、社会や他者との関係性を本格的に深化させる時期です。この段階における主要な発達課題は、「親密性 vs. 孤独」とエリクソンは提唱しています。

親密性(Intimacy)


自己のアイデンティティを確立した上で、他者(友人、恋人、配偶者、職場の同僚など)と深い絆で結ばれた関係を築く能力を指します。自分の脆弱な部分も受け入れ、相手に心を開き、互いに支え合う関係性を築くことで、精神的な充実感を得られます。

孤独(Isolation)


親密な関係を築くことができず、精神的に孤立してしまう状態です。他者との間に距離を感じたり、表面的な関係に終始したりすることで、孤独感や疎外感を抱きやすくなります。

キャリアにおける「親密性」の重要性

成人前期のキャリアは、単に個人のスキルや成果だけでなく、他者との「親密な関係性」をどう築けるかが、その質と満足度を大きく左右します。

  • チームワークと協働: 多くの仕事はチームや組織の中で行われます。同僚との信頼関係や円滑なコミュニケーションは、プロジェクトの成功や業務効率に直結します。親密性を築ける人は、チームの一員として貢献し、周囲との協働を通じて自身の能力を最大限に発揮できます。
  • メンターシップとネットワーク: 職場での上司や先輩との関係性、業界内外のネットワーク構築も重要です。深い信頼関係は、キャリアのアドバイスや新たな機会へと繋がることが多く、個人の成長を加速させます。
  • 顧客・クライアントとの関係: 顧客やクライアントとの信頼関係は、ビジネスの成功に不可欠です。相手のニーズを深く理解し、長期的な関係を築く能力は、この親密性の基盤の上に成り立っています。
  • キャリアの満足度: 良好な人間関係は、仕事のストレスを軽減し、精神的な安定をもたらします。仕事で得られるやりがいだけでなく、人とのつながりから得られる充実感も、キャリアの満足度を大きく高めます。

このように、成人前期は、青年期で培った自己の軸を活かし、他者との関係を通じてキャリアを具体的に形成し、深化させていく段階です。個体発達分化の視点からは、この時期に築かれる親密な関係性が、その後のキャリアにおける「自己の広がり」を決定づけると考えられます。

参考:乳児期から学童期までの発達課題とその後のキャリアへの間接的な影響

乳児期から学童期までの発達課題とその後のキャリアへの間接的な影響について、各段階の二項対立を明確にしながら、親御さんの目線も交えて触れていきます。これらの時期に培われる基本的な心理的特性が、後のアイデンティティ確立、ひいてはキャリア形成の基盤となります。

Ⅰ 乳児期:信頼 vs. 不信

  • 発達課題:赤ちゃんが泣いた時に、おむつを替えてもらったり、抱きしめてもらったりする安心感を通じて、世界は信頼できる場所だと感じ始める時期です。安定したケアを得られると「信頼」が育ち、そうでないと「不信」が生じます。
  • 親の目線とキャリアへの基礎:赤ちゃんのサインに一貫して応えることで、「この世界は大丈夫」「人は信じられる」という心の基盤が育ちます。これは、将来、職場で新しい人間関係を築いたり、チームで協力したりする際の安心感や協調性に繋がります。安定した信頼感を持つ人は、人との連携がスムーズで、新しい環境にも前向きに適応しやすい傾向があります。

Ⅱ 幼児期前期:自律性 vs. 恥、疑惑

  • 発達課題:「自分で!」と言い始める頃です。スプーンでご飯を食べたり、一人で着替えようとしたり、自分の力で何かを成し遂げようとする「自律性」が芽生えます。自分でできる喜びを経験すると「自律性」が育ち、過度に干渉されたり失敗を嘲笑されたりすると「恥」や「疑惑」を感じます。
  • 親の目線とキャリアへの基礎: 子どもが自分でやりたがることを、安全に配慮しつつ見守り、成功体験を積ませてあげることが大切です。この時期に「自分でできた!」という感覚を多く経験すると、後に仕事で主体的に考えて行動する力や、問題解決能力を臆することなく発揮できるようになります。過度な干渉や失敗への厳しさは、自信をなくさせ、新しいことへの挑戦をためらう原因になることもあります。

Ⅲ 幼児期後期:自発性 vs. 罪悪感

  • 発達課題:遊びの中で、自分から「〇〇しよう!」と計画したり、友達を誘ってリーダーシップを発揮したり、自発的に物事に取り組むようになる時期です。積極的に行動することで「自発性」が育ち、禁止や批判が多すぎると「罪悪感」を抱きやすくなります。
  • 親の目線とキャリアへの基礎:子どもの「やってみたい!」という気持ちを尊重し、様々な活動に挑戦する機会を与えましょう。この経験は、将来の仕事において、新しいアイデアを提案する力や、プロジェクトを自ら立ち上げる積極性に繋がります。一方で、規範やルールを破った際に「ごめんなさい」という気持ちを学ぶことで、社会性も育まれます。

Ⅳ 学童期:勤勉性 vs. 劣等感

  • 発達課題:学校での勉強や習い事、友達とのスポーツなど、目標に向かって努力し、成果を出すことの喜びを知る「勤勉性」を育みます。努力が報われ、認められると「勤勉性」が育ち、成果が出なかったり比較されたりすることで「劣等感」を抱くことがあります。
  • 親の目線とキャリアへの基礎:頑張ったプロセスや努力を認め、小さな成功を積み重ねることで、子どもは「自分にもできる!」という自信(自己効力感)を育んでいきます。これは、その後の学習意欲、専門能力の開発、そして仕事における目標達成への粘り強さに直結します。

これらの初期の発達段階で培われた基本的な心理的特性は、青年期におけるアイデンティティの基盤となり、その後のキャリア選択や職場での行動、人間関係の築き方に深く影響を与えていきます。個体発達分化は、これらの基盤の上に、さらに複雑な社会的役割と自己を統合していくプロセスです。

就職活動を行う大学生の皆様に~青年期と成人前期の狭間で築くキャリアの基盤~

就職活動は、単なる「職を得るための活動」ではありません。エリクソンの心理社会的発達理論に照らしてみると、大学生の皆さんは今、「青年期の最終課題」であるアイデンティティの確立と、「成人前期の入り口」にあたる親密性の獲得という、二つの重要な発達課題の狭間に立っています。

青年期の課題:アイデンティティ vs. 拡散

この時期に行う自己分析は、単なる就職準備ではなく、自分自身を深く理解するための探求です。価値観、興味、能力、働き方の志向などを見つめ直すことで、

  • 「自分は何者か」
  • 「何に情熱を感じるか」
  • 「どんな貢献をしたいか」

といった問いに対する答えが少しずつ形になっていきます。こうして育まれる揺るぎない自己理解(アイデンティティ)は、周囲の情報や他者の意見に流されることなく、自分らしいキャリア選択を可能にします。

成人前期の課題:親密性 vs. 孤独

社会人としての第一歩を踏み出す皆さんは、同時に他者との深い関係性を築く力も問われるようになります。職場では、

  • 上司や同僚との信頼関係
  • チームでの協働
  • 顧客との良好な関係

など、人間関係の質がキャリアの満足度や成長に直結します。青年期に確立されたアイデンティティがあることで、自分らしい姿勢で他者と関わり、健全な関係性を築く基盤が整います。

アイデンティティが曖昧なままだと…

もしアイデンティティが十分に確立されていない場合、職業選択に迷いや不安がつきまといやすくなります。また、他者との関係においても距離感や不安を感じやすくなり、孤独感や職場での疎外感につながる可能性があります。これは、キャリアの停滞やミスマッチの原因にもなり得ます。

モラトリアム期間の意義

エリクソンは、青年期から成人期への移行期を**「モラトリアム(猶予期間)」**と呼び、この期間における多様な経験の重要性を強調しています。大学生活の中で、

  • 学業
  • 留学
  • 長期アルバイト
  • ボランティア活動
  • サークル活動

など、様々な経験を通じて自分の適性や興味を探ることが、アイデンティティの確立に大きく寄与します。

就職活動は「自己確立」と「関係性構築」の準備期間

就職活動を、モラトリアム期間の集大成として捉えましょう。自己理解を深めると同時に、これから築いていく親密な関係性の基盤を整える貴重な機会です。自分らしいキャリアを選び、他者と健全な関係を築きながら、安心して社会に踏み出す準備を整えてください。

Take-Home Message

エリクソンが提唱する「個体発達分化」の概念は、キャリアが単なる職業の変遷に留まらず、生涯にわたる自己の成熟と社会との関わりの深化のプロセスであることを教えてくれます。

乳児期から培われる基本的な信頼や自律性、青年期に確立されるアイデンティティは、私たちが社会で活躍するための揺るぎない「軸」を形成します。そして、この軸を土台として、成人前期で他者と「親密な関係」を築くことによって、自己の能力や可能性を広げ、より複雑な社会的役割を担えるようになります。

キャリアの成長とは、まさにこの「自己の広がり」と「社会への貢献」を追求する旅です。エリクソンの理論は、私たちのキャリアが、人生の各段階における発達課題と深く結びついていることを示し、自分らしい充実した職業人生を送るための道しるべとなります。

次回は、エリクソンの「個体発達分化」における成人期中期から老年期に焦点を当てます。キャリアの中核を担う時期に直面する「世代性」の課題、そして人生の終盤で問われる「統合性」の課題が、私たちのキャリアにどう影響し、どのような意味をもたらすのかを探っていきます。

この記事を書いた人

プロフィール

May 2022~

HCC Japan LLC

CEO

March 1996

Tokyo University Of Agriculture in Faculty of Bioindustry

April 1996〜March 2022

Eli Lilly Japan K.K. 

Sales & Marketing
Sales Manager
Sales Operator

April 2023~

Waseda University in School of Human Sciences (e-school)

Human Informatics and Cognitive Sciences

October 2023~February 2025

Waseda University Senior High School

Teaching Assistant (Information Technology)

April 2025~ July 2025

Waseda University School of Human Sciences

Teaching Assistant (Collaborative Learning and the Learning Sciences)

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