キャリア理論10|転機とキャリア.1

キャリアに
アイディアを

働くためのアイテム

「働くためのアイテム」を探究することで、変化の激しい社会の中で、私たち一人ひとりが、主体的に自身の希望や適性、そして能力を生涯にわたって発揮できるます。私たちの未来をより豊かにするために、キャリアにアイディアというエッセンスを加え、働くためのアイテムを一緒に探っていきましょう。

挑戦し続ける力

自分だけの価値観で、豊かな人生をデザインする。

もっと自分らしく生きたい!そう思える社会、そしてより多くの人々が自分自身の人生と向き合い、より豊かな人生を送るきっかけつくりをHCCジャパンはお手伝いします。

Information

「キャリア理論10」では、「転機とキャリア~三大巨匠に学ぶ、変化を成長に変える適応の技術~」と題して、全4回でお届けします。

これまで個別に紐解いてきた、キャリアの荒波を乗りこなす、ブリッジス(キャリア理論07)、ニコルソン(08)、シュロスバーグ(09)三つの知恵。本シリーズでは、これら三大巨匠の理論の統合を目指し、バラバラだった知識を「自分らしい未来を切り拓くための具体的な実践ステップ」へと深化を試みます。

「変化」という嵐に翻弄されるのではなく、自らハンドルを握り、次なる目的地へと漕ぎ出すための最強の航海図を、HCCジャパンと共に描いてください。

転機とキャリア.1<タナカさんの物語①>

ある一人のビジネスパーソンの物語から始めましょう

ストーリー:地図を失った男、タナカさんの物語

タナカさん

タナカです

年齢・属性: 45歳、中堅メーカー勤務(勤続22年)。
家族構成: 妻と中学生の娘の3人暮らし。住宅ローン残あり。
性格・仕事ぶり: 真面目で責任感が強く、典型的な「会社人間」。現場の調整能力に長け、社内の「生き字引」として頼られてきた。
彼が持っていた「地図」: 「このまま今の部署で部長を目指し、定年まで勤め上げる。多少の苦労はあっても、積み上げたスキルと人脈があれば、この会社で居場所を失うことはない」という揺るぎない確信。

タナカさんが愛した「旧世界」:生産管理部

タナカさんが新卒から22年間、心血を注いできたのは、工場の心臓部である「生産管理部」でした。

そこは、まだシステム化されていないアナログな調整が物を言う世界。急な仕様変更や機械トラブルが起きるたび、タナカさんは現場へ走り、気難しいベテラン職人たちと膝詰めで交渉し、資材部へ頭を下げて回り、なんとか納期に間に合わせるそんな毎日。

「タナカさんがいないと現場が回らないよ」 職人からのその一言が、タナカさんの最大の勲章であり、アイデンティティでした。泥臭いけれど、人間臭い信頼関係で結ばれた、かけがえのない唯一無二の居場所だったのです。

突如放り込まれた「新世界」:デジタル推進室

しかし、全社の構造改革により、生産管理部の機能は海外拠点へ移管され、事実上の閉鎖が決定。タナカさんに言い渡されたのは、新設された「デジタル推進室」への異動でした。

そこは、タナカさんのそれまでの世界とは言語も文化も異なる「異国」と感じられました。

  • コミュニケーションの断絶: 以前は「顔を見て話す」が基本でしたが、今はチャットツール(SlackやTeams)が飛び交い、隣の席の人とも画面越しに会話します。タナカさんが得意な「阿吽の呼吸」や「行間を読む力」は通用しません。
  • 価値基準の逆転: 「汗をかいて信頼を得る」ことが正義だった生産管理部とは対照的に、ここでは「データに基づかない発言」は非効率とみなされます。会議でタナカさんが現場の感覚を伝えようとしても、「エビデンスは?」と若いリーダーに冷たく返されてしまいます。
  • 強みの無効化: 22年かけて築いた現場の人脈も、トラブルを未然に防ぐ勘も、最新のクラウドシステム導入を進めるこの部署では「過去の遺物」扱い。彼は「PC操作に手間取る、扱いにくいおじさん」というレッテルを貼られてしまいました。
タナカさん

「自分の20年間は何だったのか?」 「自分はもう、この会社に……いや、社会に必要とされていないのではないか?」

タナカさんは、築き上げてきた自信と居場所を同時に奪われ、底の見えない暗い「沼」の中に沈んでいく感覚に陥りました。彼にとっての「転機」は、単なる配置転換ではなく、「自分という人間の価値そのものが否定される事件」だったのです。

転機は「キャリアの脱皮」である(ブリッジス理論)

タナカさんが新部署で感じている「自分はもう不要なのではないか」という絶望。ウィリアム・ブリッジスは、これを外側で起きている「異動(変化)」ではなく、タナカさんの内面で起きている「トランジション(転機)」と呼びました。

ブリッジスの理論をタナカさんの状況に当てはめると、彼が今どの地点にいて、次に何が起きるのかが見えてきます。

終焉(Ending)

古い自分への幕引き タナカさんにとって最も苦しいのは、「現場の英雄」だった自分を捨てることです。しかし、新しい自分になるためには、まず「かつて有能だった自分」に感謝し、その役割が終わったことを認める「幕引き」の作業が必要です。

STEP
1

中立圏(Neutral Zone)

熟成の沼 新部署での疎外感、何をやっても空回りする感覚。タナカさんは今、この「沼」の真っ只中にいます。ブリッジスは、ここを「空虚だが、新しいアイデンティティが生まれるために不可欠な熟成期間」と呼びました。焦って答えを出そうとせず、このモヤモヤの中に留まることが、実は次への準備になります。

STEP
2

新しい始まり(New Beginning)

再起動 「多くの人が「新しい始まり」を「新しい部署のやり方に自分を染めること」だと誤解します。しかし、真の再起動とは、沼での内省を経て「自己理解」と「仕事理解」を改めて定義し直すことから始まります。

  • 新しい自己理解
    「生産管理のタナカ」という肩書きを剥がした後に残った、自分の価値(価値観や適応力)は何か?
  • 新しい仕事理解
    「冷徹なデジタル推進室」という偏見を捨て、その組織が直面している本当の課題や、そこで必要とされている「人間的な機能」は何か?
Success

この二つの円が交わる一点を見つけたとき、タナカさんの足は初めて、沼から脱出し、新しい職場に足跡を残せます。

STEP
3

参考

2025-11-13キャリア理論

キャリア理論07|ブリッジズの理論.2

沼から抜け出す鍵

タナカさんが沼から抜け出す鍵は、「一人称(当事者)」と「三人称(俯瞰者)」の視点を行き来すること、つまりメタ認知の視点です。

  • 一人称(没入)の鍵
    私は、22年の自負を否定されたようで悔しいし、不安だ」と生身の感情を認め、自分を支えるエネルギーを維持します。
  • 三人称(俯瞰)の鍵
    タナカさんは今、成長に必要な標準的なプロセス(ニュートラル・ゾーン)にいる」とドローン視点で客観視し、パニックを鎮めます。

「視点の往復」を活性化させる対話の力
しかし、一人で三人称視点を持とうとすると、どうしても「自分へのダメ出し(反省)」に偏ってしまいがちです。そこで、友人やメンター、そして「プロの鏡」である国家資格キャリアコンサルタントとの、対話が必要となります。

他者の視点という「鏡」に自分を映し出すことで、一人では届かなかった角度からの客観視(視点の往復)が活性化されるのです。

  • 対話の鍵
    一人称と三人称の間で揺れ動き、「結局、私はどうすればいいのか?」と迷うとき、必要になるのが他者との対話(コラボレーション)です。自分一人では、どうしても三人称の視点が「自分へのダメ出し」になりがちです。そんなとき、信頼できるプロの鏡を利用することを提案します。
Point

国家資格 キャリアコンサルタントの役割
キャリアコンサルタントは、タナカさんの「悔しさ(一人称)」に深く寄り添いながら、同時にキャリア理論という「地図(三人称)」を提示します。

「タナカさん、その悔しさは、あなたが現場を大切にしてきた証ですね(一人称への共感)」 「では、今のデジタル推進室で求められている『論理的説明』に、あなたの『現場把握力』を組み合わせたら、どんな新しい価値が生まれるでしょうか?(三人称からの問い)」

このように、対話を通じて二つの視点を編み合わせることで、タナカさんは「他人から言われたから動く」のではなく、「自分らしい納得感を持って、新しい役割に踏み出す」決断ができるようになります。

沼から脱出し、「足跡」を残す

「視点の往復」と「対話(コラボレーション)」の終着点は、二つの円が重なり合う場所を見つけることです。では、タナカさんにとっての「重なり合う一点」とは、具体的にどのような場所だったのでしょうか。

二つの円を重ね合わせる

  • 新しい自己理解(自分の核)
    「生産管理」という肩書きを剥がした後に残ったタナカさんの本質、それは「現場の痛みを肌で感じ、泥臭い人間関係を動かしていく力」です。これは、AIやシステムには代替できない、タナカさんが22年かけて培った最強のオペレーションシステム、つまり人間力でした。
  • 新しい仕事理解(組織の真の課題)
    デジタル推進室という「新世界」を冷静に観察して見えたのは、「システムは完璧だが、現場(人)が拒絶反応を起こしている」という深い溝でした。現場が置いてけぼりにされていることが、会社全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)を阻む真のボトルネックだったのです。

発見した新しい役割:「インタラクションの結節点」
この二つの円が交わる点を見つけタナカさんの足は、初めて「沼」から脱出し、新しい職場に確かな「足跡」を残すことができました。それは、単に若手のやり方に染まるのでもなく、過去のやり方にしがみつくのでもない、「最先端のデジタル」と「泥臭い現場の心」を繋ぐインタラクション(相互作用)の主役という役割です。

タナカさん

「私の足跡ですが、現場とデジタル推進室の間にあった大きな溝を埋めることでした。なぜ職人たちがこのシステムを嫌がるのか、自ら現場へ出向き、本音を聴き出しました。その声を反映し、現場が直感的に使えるUI(画面)へ修正するようデジタル推進室のメンバーを説得することに成功できました。」

タナカさんにしかできない現場との「信頼」と「調整」が始まったとき、デジタル推進室は初めて現場と手を取り合い、全社的な変革が加速し始めました。タナカさんは、デジタル環境という異国において、自分だけの唯一無二の価値を確立したのです。

Take-Home Message

「タナカさんの物語①」を通じて、今回の学びは3つの「荒波を乗りこなす」航海図でした。

  • 「終わること」を恐れない航海図
    転機は、新しいことを始める前に、古い役割や自分に「幕を引く」ことから始まります。喪失感は、あなたがそれだけ誠実に仕事に向き合ってきた証です。
  • 「沼」は成長の熟成期間の航海図
    何も進んでいないように感じる時期(ニュートラル・ゾーン)こそ、新しい「自己理解」と「仕事理解」を深めるための貴重な測量期間です。焦らず、そのモヤモヤを味わい尽くしましょう。
  • 「一人称」と「三人称」を対話で編む航海図
    「私は悔しい(感情)」と「今は転機のプロセスだ(客観)」を、信頼できるプロとの対話で統合してください。その交差点に、あなたにしか残せない「新しい足跡」が必ず見つかります。
Success

セルフワーク
いま、あなたが直面している変化を一つ思い浮かべてください。

構造の把握
「三人称(客観的に見ると、この変化には〜という背景がある)」で、状況を眺めてみましょう。
段階の確認
あなたは今、ブリッジスの言う「終焉」「中立圏(沼)」「新しい始まり」のどこに立っていますか?
感情の言語化
「一人称(私は〜と感じる)」で、今の本音を書き出してみましょう。

一人で視点を往復させるのが難しいとき、あるいは「沼」が深くて足元が見えないときは、私たちキャリアコンサルタントを「プロの鏡」として使ってください。一緒に、あなたの新しい航海図を描き直しましょう。

次回は、「キャリア理論10|<タナカさんの物語②>では、シュロスバーグの理論を使い、転機を乗りこなすための4つの資源「4S」から考えます。新しい役割の兆しが見えたタナカさんですが、歩き出すためには装備が必要です。彼が持つ「武器(リソース)」を棚卸しし、具体的にどう動員していくかの戦略を練り上げます。

この記事を書いた人

プロフィール

May 2022~

HCC Japan LLC

CEO

April 2023~

Waseda University in School of Human Sciences (e-school)

Human Informatics and Cognitive Sciences

March 1996

Tokyo University Of Agriculture in Faculty of Bioindustry

April 1996〜March 2022

Eli Lilly Japan K.K. 

Sales & Marketing
Sales Manager
Sales Operator

October 2023~February 2025

Waseda University Senior High School

Teaching Assistant (Information Technology)

April 2025~ July 2025

Waseda University School of Human Sciences

Teaching Assistant (Collaborative Learning and the Learning Sciences)

会社概要
-COMPANY PROFILE-

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