キャリア理論05|エリクソンの理論.4
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キャリア理論05|エリクソンの理論.4(個体発達分化②成人期~老年期)
エリクソンの心理社会的発達理論における「個体発達分化」は、青年期に確立されたアイデンティティを基盤として、生涯にわたり自己と社会との関係性を深化させ、心理的成熟を遂げていく発達のプロセスです。前回は成人前期までの個体発達分化に焦点を当てましたが、今回はキャリアの中核を担う成人期(壮年期)から、人生の最終段階である老年期にかけての個体発達分化、そしてそれがキャリアにどう影響するかを探っていきます。
個体発達分化と成人期(壮年期)
エリクソンが成人期(およそ40歳から60歳頃、壮年期とも)に位置づけた発達課題は、「世代性 vs. 停滞性」です。この時期は、多くの人がキャリアの中心的役割を果たし、家庭・職場・地域社会など複数の領域で責任を担う、人生の充実期とも言える段階です。
世代性(Generativity):
「次の世代を育むこと」や「社会に貢献すること」に価値を見出し、精力的に活動する状態を指します。これは、実の子どもの育成に留まらず、職場での後進の指導や育成、プロジェクトでの成果創出、地域社会への貢献、新しい技術や知識の創造など、自身の経験や能力を他者や社会のために活かそうとする意欲として現れます。この世代性を達成することで、個人は大きな充実感と意義を感じ、自己の存在価値を再確認できます。
停滞性(Stagnation):
世代性の達成が困難である場合、自己中心的な傾向が強まり、他者や社会への関心が希薄になることで、停滞性が現れます。結果として、閉塞感や無力感、人生の停滞を感じやすくなります。これは、仕事におけるマンネリ化、目標の喪失、モチベーションの低下など、キャリアの危機として現れることも少なくありません。
キャリアにおける「世代性」の重要性
この壮年期の「世代性」の課題は、キャリア形成において極めて重要な意味を持ちます。
- リーダーシップと育成: 部下や後輩の指導育成を通じて、自身の知識やスキルを次世代に継承することは、組織全体の成長に貢献すると同時に、自身のキャリアにおける新たな役割と意義を見出すことにつながります。
- 社会貢献と自己実現: 仕事を通じて社会的な課題解決に貢献したり、新たな価値を創造したりすることは、個人の自己実現と深く結びついています。単に収入を得るだけでなく、「自分の仕事が社会に役立っている」という実感は、大きなやりがいとなります。
- キャリアの成熟: 自身の専門性や経験を活かして、より高度な業務やマネジメントに携わることで、キャリアは一層成熟していきます。これは、自身の仕事の質を高めるだけでなく、周囲への影響力も拡大する時期です。
「個体発達分化」の観点から見ると、この時期は青年期に確立したアイデンティティを基盤として、自己の能力や影響力を社会へと積極的に拡大していく段階と言えます。
個体発達分化と老年期
エリクソンが人生の最終段階、老年期(およそ60歳頃から)に位置づけた発達課題は、「統合性 vs. 絶望」です。この時期は、現役を退いたり、社会的な役割が変化したりする中で、自身の人生全体を振り返り、その意味を再構築するフェーズに入ります。
統合性(Ego integrity):
これまでの人生(仕事、家庭、人間関係、挑戦と失敗)すべてを肯定的に受けとめ、後悔なく「これでよかった」と納得できる心の状態です。成功だけでなく、困難や選択の迷いも含めて、自分の人生の歩みに一貫した意味を見出すことができれば、人生の終盤においても深い充足感と精神的安定が得られます。この統合感は、単なる満足ではなく、深い知恵(wisdom)として現れます。若い世代に対して、経験に基づいた洞察を伝えたり、組織や社会に対して持続可能な価値を残したりすることが可能になります。
絶望(Despair):
人生を振り返ったときに、後悔や不満、未達成感が多く、自分の歩みに意味を見出せない場合、絶望感が生じます。過去の選択を悔やみ、「もっとこうしていれば」といった思いに囚われることで、心の安定を損ないやすくなります。この状態は、未来に対する希望を持ちにくくなり、社会との関わりも希薄になりがちです。キャリアの終盤においても、自己肯定感を保つことが難しくなる可能性があります。
キャリアにおける「統合性」の意義
老年期の「統合性」の課題は、個人のキャリアの終結、あるいは新たなスタート(セカンドキャリアなど)を考える上で非常に重要です。
- キャリアの総括: これまでのキャリアパス全体を振り返り、その中で経験した成功や失敗、喜びや苦労に意味を見出すこと。自分の仕事人生に納得感を持てるかどうかが問われます。
- 自己受容: 完璧ではなかったかもしれない自分のキャリアを受け入れ、その中で得た学びや成長を認識すること。
- 知恵の伝承: 自身のキャリア経験やそこから得た教訓を、次世代に語り継ぐことで、社会貢献の一環とすることもできます。
「個体発達分化」の観点からは、この時期は社会への直接的な関与は減少するかもしれませんが、自己の人生とキャリアを深く内省し、精神的な成熟と調和を図ることで、最終的な自己の統合を達成する段階に入ります。
転職を考えている社会人の皆様に
成人期以降の社会人の皆さんにとって、キャリアの再評価や転職、再就職を考える際は、エリクソンの「世代性」や「統合性」といった発達課題の視点を取り入れることが役立ちます。
- 「世代性」の視点から: もしキャリアの停滞を感じているのであれば、「今の仕事で、私は社会や次世代に何を貢献できているだろうか?」「私の経験やスキルは、もっと他の場所で活かせるのではないか?」と問い直してみてください。単なる役割や待遇の変化だけでなく、「より深い意味での生産性」を求めてキャリアチェンジを検討することは、新たな充実感と活力を生み出すでしょう。管理職への挑戦、異なる分野でのスキル応用、社会貢献度の高い仕事への移行などが考えられます。
- 「統合性」の視点から: 人生の後半期に差し掛かっている場合は、これまでのキャリアを振り返り、「自分はどんな仕事人生を送ってきたか」「このままで後悔しないか」を問い直すことも大切です。セカンドキャリアを考える際も、「引退後の自分は何に価値を見出し、どう生きていきたいか」という「人生全体の統合性」を見据えることが、後悔のない選択につながります。これは、単に収入を得るためだけでなく、生きがいや自己実現の場としての仕事を探す視点を与えてくれます。
エリクソンの理論は、キャリアを「生き方そのもの」として捉えることを促します。自身のライフステージと発達課題を意識することで、キャリア選択はより戦略的かつ、より本質的な「人生の再設計」へと変わっていくことが期待できます。
Take-Home Message
エリクソンの心理社会的発達理論は、キャリアが青年期のアイデンティティに始まり、成人期の「世代性」、そして老年期の「統合性」へと、生涯にわたり深化していく自己形成のプロセスであることを明確に示しています。
キャリアの成長は、単なるスキルアップや昇進に留まらず、自身の経験を他者や社会に還元し、人生全体を肯定的に受け入れるという「心理的成熟」と密接に結びついています。エリクソンの理論を理解することで、私たちは各ライフステージで直面するキャリア課題を、自己成長の機会として捉え、より意味深く、充実した職業人生を築くための羅針盤とすることが期待できます。
次回は最終章「キャリア理論04|エリクソンの理論.5(エリクソンの理論から見える中高年期の展望)」として、これまでのエリクソン理論を総括し、特に中高年期におけるキャリアの可能性や課題に焦点を当てていきます。

この記事を書いた人
プロフィール
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Tokyo University Of Agriculture in Faculty of Bioindustry
Eli Lilly Japan K.K.
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Sales Manager
Sales Operator
Waseda University in School of Human Sciences (e-school)
Human Informatics and Cognitive Sciences
Waseda University Senior High School
Teaching Assistant (Information Technology)
Waseda University School of Human Sciences
Teaching Assistant (Collaborative Learning and the Learning Sciences)
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