キャリア理論10|転機とキャリア.3

キャリアに
アイディアを

働くためのアイテム

「働くためのアイテム」を探究することで、変化の激しい社会の中で、私たち一人ひとりが、主体的に自身の希望や適性、そして能力を生涯にわたって発揮できるます。私たちの未来をより豊かにするために、キャリアにアイディアというエッセンスを加え、働くためのアイテムを一緒に探っていきましょう。

挑戦し続ける力

自分だけの価値観で、豊かな人生をデザインする。

もっと自分らしく生きたい!そう思える社会、そしてより多くの人々が自分自身の人生と向き合い、より豊かな人生を送るきっかけつくりをHCCジャパンはお手伝いします。

Information

「キャリア理論10」では、「転機とキャリア~三大巨匠に学ぶ、変化を成長に変える適応の技術~」と題して、全4回でお届けします。

これまで個別に紐解いてきた、キャリアの荒波を乗りこなす、ブリッジス(キャリア理論07)、ニコルソン(08)、シュロスバーグ(09)三つの知恵。本シリーズでは、これら三大巨匠の理論の統合を目指し、バラバラだった知識を「自分らしい未来を切り拓くための具体的な実践ステップ」へと深化を試みます。

「変化」という嵐に翻弄されるのではなく、自らハンドルを握り、次なる目的地へと漕ぎ出すための最強の航海図を、HCCジャパンと共に描いてください。

転機とキャリア.3<タナカさんの物語③>

前回、シュロスバーグの「4S」で装備を点検し、若手リーダーという心強い味方(Support)を得たタナカさん。現場とデジタルの架け橋として、いよいよ実働し始めました。

しかし、現場に足を運び、デジタルの会議に参加し続ける中で、タナカさんの心には新たなモヤモヤが生じているようです。

2026-02-12キャリア理論

キャリア理論10|転機とキャリア.2

自分を変えるか、役割を変えるか

タナカさん

「若手のやり方を学び、周囲に合わせる努力はしている。でも、どこか無理をしている自分がいる。これまでの22年の経験を押し殺して、ただの『物分かりの良い新人おじさん』として振る舞うことが、本当に自分らしい適応なのだろうか?」

タナカさんには、モヤモヤ感が広がっています。これは、変化の荒波を乗り越えようとする誰もが突き当たる「適応」のジレンマです。自分を環境に合わせるのか、それとも環境を自分らしく変えるのか。この問いに答えを出し、納得感のある居場所を確立するために、ニコルソンの「4つの適応モード」から、次なる航海図を手に入れます。
※板を挟み動けなくなり、困った状況

板挟みを乗り越える

タナカさんが直面しているのは、まさに「適応」のジレンマ(板挟み)です。周りに染まりすぎれば「自分」が消えてしまい、自分を押し通しすぎれば「居場所」を失う。この不自由な状況を打破するために、ニコルソンの理論を用います。

そのニコルソンは、新しい環境への適応スタイルを「関わり(行動の強さ)」と「解釈(意味の捉え直し)」の組み合わせで4つに分類しました。タナカさんの現在地と、目指すべき「移行の目的」を整理してみましょう。

2025-12-11キャリア理論

キャリア理論08|ニコルソンの理論.2

スタイル特徴(関わり×解釈)役割移行の目的とタナカさんの姿
吸収(Absorption)関わり(高)× 解釈(高)役割への同一化と自己成長:役割に深く没入し、要求に合わせて自己を根本的に変革する。今のタナカさんが必死に「新人」になりきろうとしている状態。
複製(Replication)関わり(高)× 解釈(低)効率的な適合と現状維持:積極的に遂行するが、過去のやり方を持ち込む。以前の「現場のノリ」をそのまま新部署で押し通そうとするリスク。
探索(Exploration)関わり(低)× 解釈(高)内省的な学習と将来への布石:行動は控えめにし、観察を通じて自己変革の準備を進める。「焦らず周囲を観察し、自分の価値をどう編み直すか」を練る時期。
決定(Determination)関わり(低)× 解釈(低)役割移行の回避と停滞:変化を受動的に受け入れ、関与も自己変革も避ける。心を閉ざし、ただ時間が過ぎるのを待つ「働かないおじさん」への道。

これを具体的示すとこうなります。

適応モード内容タナカさんのイメージ
吸収(Absorption)自分を環境に合わせる。役割はそのまま受け入れる。「新人おじさん」として、若手の指示に100%従う。
複製(Replication)自分も変えず、仕事のやり方も変えない。以前の部署のやり方を頑なに貫こうとする。
探索(Exploration)自分も変え、仕事のやり方も新しく作り出す。ITを学びつつ、自分にしかできない新しい役割を作る。
決定(Determination)自分は変えず、仕事のやり方を自分流に変える。デジタルは覚えず、現場調整だけで成果を出そうとする。

「吸収」から「探索」へ

今のタナカさんは、「吸収」つまり「役割への没入」に全力を注いでいました。自分を捨ててでも新しい役割に同一化しようとした結果、心が悲鳴を上げたのです。

そこで、一旦アクセルを緩め「探索」へとシフトを提案します。

なぜ「必死に合わせる」のをやめるべきなのか?

多くの人が、新しい環境では「早く戦力にならなければ」と吸収(Absorption)を急ぎます。しかし、自分を消して環境に染まりすぎると、以下の2つのリスクが生じます。

  • バーンアウト(燃え尽き)
    自分らしさを抑え続けることで心理的エネルギーが枯渇する。
  • オリジナリティーの喪失
    周囲と同じ色に染まりきることで、 これまでのキャリアで磨き上げてきた「独自の視点」や「現場感覚」といった唯一無二の価値が消えてしまう。

あえて環境に合わせる行動を控え、状況をじっくりと観察し、自己変容の好機をうかがいながら「新たな貢献」を探索する。それは、「組織が抱える課題」と「自分のオリジナリティー」が交差するポイントを見極めるための、高度な戦略的準備なのです。

戦略的準備の先にあるものは

自分を環境に合わせようと必死になり、「新人おじさん」としての存在にモヤモヤしていたタナカさんは、あえて一歩引いて「探索(Exploration)」の時間を持つ決断をしました。そこで冷静に周囲を観察して見えてきたのは、若手たちが気づいていない、しかし組織にとって致命的な「ミッシングピース(欠けている欠片)」でした。

「探索」から導き出したタナカさんの戦略

  • 見えてきた「ミッシングピース」
    若手リーダーたちは「最高のシステム」を作ることに長けていましたが、現場の職人たちが抱く「自分たちの仕事が機械に奪われるのではないか」という心理的な抵抗や不安にまでは、想像が及んでいませんでした。
  • タナカさんにしかできない「解釈」
    タナカさんは、無理にプログラミングを覚えるのをやめました。その代わり、現場の「言葉にならない不安」を拾い上げ、システムの設計思想に反映させる「ITと現場のインターフェース」という新たな役割を自ら定義したのです。

「内省的な学習」がもたらした3つの成果

  • 「スキルの呪縛」からの解放
    「ITができない自分」を責めるのではなく、「現場を熟知している自分」というオリジナリティーをどう IT と掛け合わせるか、というポジティブな視点に切り替わりました。
  • 独自の「役割開発」
    組織から与えられた「新人」という型を、自分の持ち味に合わせて「役割を変える(役割開発)」ことで、組織になくてはならない存在へと自分をアップデートしました。
  • 対等なリスペクトの獲得
    単に「教えを請う新人」から、現場の深い洞察を提供する「プロフェッショナルなパートナー」へと立ち位置が変わったことで、若手リーダーとの間にも真の信頼関係が芽生えました。
タナカさん

「すぐに行動を起こすのではなく、自分と役割の関係を捉え直す時間を取った。この『内省的な学習』という布石があったからこそ、自分を消さずに、組織に最も貢献できる『自分らしい居場所』を見出すことができました。」

対話が導く「適応モード」

タナカさんのモヤモヤを解きほぐしたのは、こんなやり取りでした。

「タナカさん、今の状況をニコルソンの4つの適応モードで見ると、ご自身はどのモードにいると感じますか?」

タナカさん

「今のわたしは、必死に『吸収(自分を環境に染める)』しようとしていると感じます。でも、染まろうとすればするほど、自分らしさが消えていくようで苦しいんです。」

この対話を経て、タナカさんは「ただ従う新人」であることを一度やめました。一旦アクセルを緩め、あえて「探索」の時間を取ったことで、タナカさんは大切なことに気づきます。

  • 気づき
    若手のスピード感ある開発の裏で、現場の職人たちが「置き去り」にされているという、組織にとって致命的な違和感。
  • 決断
    「ITスキルだけで若手と競う」のではなく、現場の声を吸い上げ、デジタルの設計に反映させる「ITと現場のインターフェース(接点)」という独自の役割を自ら定義し、提案すること。

この気づきと決断は、ニコルソンの理論にあてはめると、新しい環境を学ぶ「自己変容」と、自分の持ち味で仕事のやり方を変える「役割開発」の双方が機能し始めたことを意味します。この適応モードこそが「探索(Exploration)」であり、その先には組織と個人が響き合う「共創」の世界が広がっていきました。

4Sを「行動の問い」に変える

4Sを整理する際、タナカさんはメタ認知を使って「思い込み」を外していきました。

  • 一人称(当事者)
    「私はITができない。だからこの部署では役に立てない(=自己否定)」
  • 三人称(俯瞰者)
    「タナカさんはITは苦手だが、現場の信頼という稀少な資源を持っている。デジタル推進室が一番欲しがっているのは、実はその資源ではないか?(=構造的理解)」
Point

国家資格 キャリアコンサルタントとの対話
タナカさんの物語は、「理論を知っていること」と「対話を通じてそれを自分事にすること」の両輪があって初めて動き出しました。「自分を消して染まる」という苦しい適応から、「自分のオリジナリティーを活かす」という前向きな適応へ。その転換点(パラダイムシフト)は、対話によって、より確かなものとして加速しました。

Take-Home Message

今回の「タナカさんの物語③」を通じて、手に入れた航海図は次の3つです。

  • 「吸収」だけで終わらない航海図
    適応の初期段階では、環境に染まろうとする「吸収(Absorption)」も必要ですが、そこに留まり続けると自分を見失い、バーンアウトやオリジナリティーの喪失を招きます。「染まること」が適応のゴールではありません。
  • 「探索」は飛躍のための戦略的準備航海図
    自分を環境に合わせようと頑張り続けることを一時的に抑え、周囲を冷静に観察して「自分ならではの解釈」を加える時間は、決して停滞ではありません。組織の課題(ミッシングピース)と自分の持ち味(オリジナリティー)が交差するポイントを探り当てるための、知的な助走期間です。
  • 「役割開発」で自分らしい居場所を創る航海図
    環境に100%自分を合わせるのではなく、自分の経験という「色」を活かして、仕事のやり方や役割を自ら再定義(役割開発)しましょう。そうすることで、周囲との関係は「教える・教わる」を超えた、対等なプロとしての「共創」へと進化します。
Success

セルフワーク
タナカさんのように「新人おじさん」のジレンマから抜け出し、独自の役割を見つけるためのワークです。ノートやメモ帳を準備して、今の正直な気持ちを書き出してみましょう。

現在の「適応モード」を診断する

  • 吸収: 周囲の期待に応えようと、自分を必死に変えようとしている
  • 複製: 以前のやり方をそのまま持ち込み、周囲と摩擦が起きている
  • 決定: 変化を諦め、指示されたことだけを淡々とこなしている
  • 探索: 状況をじっくり観察し、自分に何ができるか考え始めている

問い: そのモードで過ごす中で、心や体にどんなサイン(モヤモヤ、疲れ、虚しさなど)が出ていますか?

STEP
1

組織の「ミッシングピース」を探す

「探索」のモードに切り替えて、一歩引いて周囲を観察してみましょう。

  • 今のチームや組織で、みんなが忙しくて「後回しにしていること」は何ですか?
  • 若手や周囲が気づいていない、現場や顧客の「小さな痛み」は何ですか?
  • 「もっとこうすれば円滑にいくのに」と感じる、些細な違和感はありませんか?
STEP
2

あなたの「オリジナリティー」を掛け合わせる

Step 2で見つけた課題に、あなたのこれまでの経験をどう掛け合わせられるか考えます。

  • これまでのキャリアで培った「あなたの強み(専門性、調整力、人脈など)」を1つ挙げてください。
  • その強みを使って、組織の「ミッシングピース」を埋めるために、自分から提案できそうな「小さな役割」を言葉にしてみましょう。
    • 例:「ITスキルで競うのではなく、〇〇と△△の間に入る『調整役』を引き受ける」
STEP
3

キャリアコンサルタントと相談するメリット
特に、自分一人でStep3を考えると、「そんなのできっこない」「生意気だと思われるかも」というブレーキがかかりがちです。そんな時こそ、信頼できるプロの伴走者を「リソース(資源)」の一つとして活用してください。対話を通じて得られるメリットは、単なる励まし以上のものがあります。

次回は、「キャリア理論10|<タナカさんの物語からの学び>」では、「新人おじさん」としての葛藤を乗り越え、自分らしい「インターフェース」という役割を見つけ出したタナカさん。彼を支えたのは、3人の巨匠たちが遺した知恵と、プロの伴走者による対話でした。

  • ブリッジスが説いた「過去を手放す勇気」
  • シュロスバーグが教えた「装備を点検する戦略」
  • ニコルソンが導いた「役割を自ら創る技術」

バラバラに見えたこれらの航海図(理論)が、対話によってタナカさんの人生の「航海術」として結びつきました。最終回では、タナカさんの物語をともに、「転機という荒波を、あなただけのチャンスに変えるためのロードマップ」の作成に挑みます。

この記事を書いた人

プロフィール

May 2022~

HCC Japan LLC

CEO

April 2023~

Waseda University in School of Human Sciences (e-school)

Human Informatics and Cognitive Sciences

March 1996

Tokyo University Of Agriculture in Faculty of Bioindustry

April 1996〜March 2022

Eli Lilly Japan K.K. 

Sales & Marketing
Sales Manager
Sales Operator

October 2023~February 2025

Waseda University Senior High School

Teaching Assistant (Information Technology)

April 2025~ July 2025

Waseda University School of Human Sciences

Teaching Assistant (Collaborative Learning and the Learning Sciences)

会社概要
-COMPANY PROFILE-

\ようこそ/
HCCジャパンの提案

歴史は人がつくる
人は歴史をつくる

いらすと
すてーしょん

"いらすとすてーしょん"は独自のタッチで描いた

フリーイラストポートレートと歴史の停車場の提供を

通じて世代を繋ぐ遺産として、そして