キャリア理論10|転機とキャリア.3
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「働くためのアイテム」を探究することで、変化の激しい社会の中で、私たち一人ひとりが、主体的に自身の希望や適性、そして能力を生涯にわたって発揮できるます。私たちの未来をより豊かにするために、キャリアにアイディアというエッセンスを加え、働くためのアイテムを一緒に探っていきましょう。
挑戦し続ける力
自分だけの価値観で、豊かな人生をデザインする。
もっと自分らしく生きたい!そう思える社会、そしてより多くの人々が自分自身の人生と向き合い、より豊かな人生を送るきっかけつくりをHCCジャパンはお手伝いします。

転機とキャリア.3<タナカさんの物語③>

前回、シュロスバーグの「4S」で装備を点検し、若手リーダーという心強い味方(Support)を得たタナカさん。現場とデジタルの架け橋として、いよいよ実働し始めました。
しかし、現場に足を運び、デジタルの会議に参加し続ける中で、タナカさんの心には新たなモヤモヤが生じているようです。
自分を変えるか、役割を変えるか

「若手のやり方を学び、周囲に合わせる努力はしている。でも、どこか無理をしている自分がいる。これまでの22年の経験を押し殺して、ただの『物分かりの良い新人おじさん』として振る舞うことが、本当に自分らしい適応なのだろうか?」
タナカさんには、モヤモヤ感が広がっています。これは、変化の荒波を乗り越えようとする誰もが突き当たる「適応」のジレンマ※です。自分を環境に合わせるのか、それとも環境を自分らしく変えるのか。この問いに答えを出し、納得感のある居場所を確立するために、ニコルソンの「4つの適応モード」から、次なる航海図を手に入れます。
※板を挟み動けなくなり、困った状況
板挟みを乗り越える
タナカさんが直面しているのは、まさに「適応」のジレンマ(板挟み)です。周りに染まりすぎれば「自分」が消えてしまい、自分を押し通しすぎれば「居場所」を失う。この不自由な状況を打破するために、ニコルソンの理論を用います。
そのニコルソンは、新しい環境への適応スタイルを「関わり(行動の強さ)」と「解釈(意味の捉え直し)」の組み合わせで4つに分類しました。タナカさんの現在地と、目指すべき「移行の目的」を整理してみましょう。
| スタイル | 特徴(関わり×解釈) | 役割移行の目的とタナカさんの姿 |
| 吸収(Absorption) | 関わり(高)× 解釈(高) | 役割への同一化と自己成長:役割に深く没入し、要求に合わせて自己を根本的に変革する。今のタナカさんが必死に「新人」になりきろうとしている状態。 |
| 複製(Replication) | 関わり(高)× 解釈(低) | 効率的な適合と現状維持:積極的に遂行するが、過去のやり方を持ち込む。以前の「現場のノリ」をそのまま新部署で押し通そうとするリスク。 |
| 探索(Exploration) | 関わり(低)× 解釈(高) | 内省的な学習と将来への布石:行動は控えめにし、観察を通じて自己変革の準備を進める。「焦らず周囲を観察し、自分の価値をどう編み直すか」を練る時期。 |
| 決定(Determination) | 関わり(低)× 解釈(低) | 役割移行の回避と停滞:変化を受動的に受け入れ、関与も自己変革も避ける。心を閉ざし、ただ時間が過ぎるのを待つ「働かないおじさん」への道。 |
これを具体的示すとこうなります。
| 適応モード | 内容 | タナカさんのイメージ |
| 吸収(Absorption) | 自分を環境に合わせる。役割はそのまま受け入れる。 | 「新人おじさん」として、若手の指示に100%従う。 |
| 複製(Replication) | 自分も変えず、仕事のやり方も変えない。 | 以前の部署のやり方を頑なに貫こうとする。 |
| 探索(Exploration) | 自分も変え、仕事のやり方も新しく作り出す。 | ITを学びつつ、自分にしかできない新しい役割を作る。 |
| 決定(Determination) | 自分は変えず、仕事のやり方を自分流に変える。 | デジタルは覚えず、現場調整だけで成果を出そうとする。 |
「吸収」から「探索」へ

今のタナカさんは、「吸収」つまり「役割への没入」に全力を注いでいました。自分を捨ててでも新しい役割に同一化しようとした結果、心が悲鳴を上げたのです。
そこで、一旦アクセルを緩め「探索」へとシフトを提案します。
なぜ「必死に合わせる」のをやめるべきなのか?
多くの人が、新しい環境では「早く戦力にならなければ」と吸収(Absorption)を急ぎます。しかし、自分を消して環境に染まりすぎると、以下の2つのリスクが生じます。
- バーンアウト(燃え尽き)
自分らしさを抑え続けることで心理的エネルギーが枯渇する。 - オリジナリティーの喪失
周囲と同じ色に染まりきることで、 これまでのキャリアで磨き上げてきた「独自の視点」や「現場感覚」といった唯一無二の価値が消えてしまう。
あえて環境に合わせる行動を控え、状況をじっくりと観察し、自己変容の好機をうかがいながら「新たな貢献」を探索する。それは、「組織が抱える課題」と「自分のオリジナリティー」が交差するポイントを見極めるための、高度な戦略的準備なのです。
戦略的準備の先にあるものは
自分を環境に合わせようと必死になり、「新人おじさん」としての存在にモヤモヤしていたタナカさんは、あえて一歩引いて「探索(Exploration)」の時間を持つ決断をしました。そこで冷静に周囲を観察して見えてきたのは、若手たちが気づいていない、しかし組織にとって致命的な「ミッシングピース(欠けている欠片)」でした。
「探索」から導き出したタナカさんの戦略
- 見えてきた「ミッシングピース」
若手リーダーたちは「最高のシステム」を作ることに長けていましたが、現場の職人たちが抱く「自分たちの仕事が機械に奪われるのではないか」という心理的な抵抗や不安にまでは、想像が及んでいませんでした。 - タナカさんにしかできない「解釈」
タナカさんは、無理にプログラミングを覚えるのをやめました。その代わり、現場の「言葉にならない不安」を拾い上げ、システムの設計思想に反映させる「ITと現場のインターフェース」という新たな役割を自ら定義したのです。
「内省的な学習」がもたらした3つの成果
- 「スキルの呪縛」からの解放
「ITができない自分」を責めるのではなく、「現場を熟知している自分」というオリジナリティーをどう IT と掛け合わせるか、というポジティブな視点に切り替わりました。 - 独自の「役割開発」
組織から与えられた「新人」という型を、自分の持ち味に合わせて「役割を変える(役割開発)」ことで、組織になくてはならない存在へと自分をアップデートしました。 - 対等なリスペクトの獲得
単に「教えを請う新人」から、現場の深い洞察を提供する「プロフェッショナルなパートナー」へと立ち位置が変わったことで、若手リーダーとの間にも真の信頼関係が芽生えました。

「すぐに行動を起こすのではなく、自分と役割の関係を捉え直す時間を取った。この『内省的な学習』という布石があったからこそ、自分を消さずに、組織に最も貢献できる『自分らしい居場所』を見出すことができました。」
対話が導く「適応モード」
タナカさんのモヤモヤを解きほぐしたのは、こんなやり取りでした。

「タナカさん、今の状況をニコルソンの4つの適応モードで見ると、ご自身はどのモードにいると感じますか?」

「今のわたしは、必死に『吸収(自分を環境に染める)』しようとしていると感じます。でも、染まろうとすればするほど、自分らしさが消えていくようで苦しいんです。」
この対話を経て、タナカさんは「ただ従う新人」であることを一度やめました。一旦アクセルを緩め、あえて「探索」の時間を取ったことで、タナカさんは大切なことに気づきます。
- 気づき
若手のスピード感ある開発の裏で、現場の職人たちが「置き去り」にされているという、組織にとって致命的な違和感。 - 決断
「ITスキルだけで若手と競う」のではなく、現場の声を吸い上げ、デジタルの設計に反映させる「ITと現場のインターフェース(接点)」という独自の役割を自ら定義し、提案すること。
この気づきと決断は、ニコルソンの理論にあてはめると、新しい環境を学ぶ「自己変容」と、自分の持ち味で仕事のやり方を変える「役割開発」の双方が機能し始めたことを意味します。この適応モードこそが「探索(Exploration)」であり、その先には組織と個人が響き合う「共創」の世界が広がっていきました。
4Sを「行動の問い」に変える
4Sを整理する際、タナカさんはメタ認知を使って「思い込み」を外していきました。
- 一人称(当事者)
「私はITができない。だからこの部署では役に立てない(=自己否定)」 - 三人称(俯瞰者)
「タナカさんはITは苦手だが、現場の信頼という稀少な資源を持っている。デジタル推進室が一番欲しがっているのは、実はその資源ではないか?(=構造的理解)」
Take-Home Message
今回の「タナカさんの物語③」を通じて、手に入れた航海図は次の3つです。
- 「吸収」だけで終わらない航海図
適応の初期段階では、環境に染まろうとする「吸収(Absorption)」も必要ですが、そこに留まり続けると自分を見失い、バーンアウトやオリジナリティーの喪失を招きます。「染まること」が適応のゴールではありません。 - 「探索」は飛躍のための戦略的準備航海図
自分を環境に合わせようと頑張り続けることを一時的に抑え、周囲を冷静に観察して「自分ならではの解釈」を加える時間は、決して停滞ではありません。組織の課題(ミッシングピース)と自分の持ち味(オリジナリティー)が交差するポイントを探り当てるための、知的な助走期間です。 - 「役割開発」で自分らしい居場所を創る航海図
環境に100%自分を合わせるのではなく、自分の経験という「色」を活かして、仕事のやり方や役割を自ら再定義(役割開発)しましょう。そうすることで、周囲との関係は「教える・教わる」を超えた、対等なプロとしての「共創」へと進化します。
次回は、「キャリア理論10|<タナカさんの物語からの学び>」では、「新人おじさん」としての葛藤を乗り越え、自分らしい「インターフェース」という役割を見つけ出したタナカさん。彼を支えたのは、3人の巨匠たちが遺した知恵と、プロの伴走者による対話でした。
- ブリッジスが説いた「過去を手放す勇気」
- シュロスバーグが教えた「装備を点検する戦略」
- ニコルソンが導いた「役割を自ら創る技術」
バラバラに見えたこれらの航海図(理論)が、対話によってタナカさんの人生の「航海術」として結びつきました。最終回では、タナカさんの物語をともに、「転機という荒波を、あなただけのチャンスに変えるためのロードマップ」の作成に挑みます。

この記事を書いた人
プロフィール
HCC Japan LLC
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Waseda University in School of Human Sciences (e-school)
Human Informatics and Cognitive Sciences
Tokyo University Of Agriculture in Faculty of Bioindustry
Eli Lilly Japan K.K.
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Sales Manager
Sales Operator
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Teaching Assistant (Information Technology)
Waseda University School of Human Sciences
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