キャリア理論08|ニコルソンの理論.2

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「キャリア理論08」では、ナイジェル・ニコルソン(Nigel Nicholson・London Business School)の理論をもとに、新しい役割に移行する際の「自己と役割の再設計」に焦点を当て、全4回でお届けします。

キャリア理論08|ニコルソンの理論.2(4つの適応パターンの詳細と事例)

前回の振り返り:役割と自己の再設計

前回(ニコルソンの理論.1)では、キャリア転機における「自己(I)と役割(Role)の再設計」という視点を紹介しました。ニコルソンの理論は、心理的準備(ブリッジズのトランジション)を土台に、新しい役割にどう関わり、どのように自己を再定義するかを考えるフレームです。その鍵となるのが、役割への関わり(Engagement)と自己の解釈(Interpretation)という2つの軸です。この組み合わせによって、4つの適応パターンが生まれます。

今回は、この「4つの適応パターン」がテーマです。

4つの適応パターン:スタイルと軸の組み合わせ

ニコルソンは、1984年の論文「A Theory of Work Role Transitions※1」で、この2つの軸に基づく役割移行時の適応スタイルを以下の4つに分類しました。

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スタイル軸の組み合わせ特徴役割移行の目的
Absorption (アブソープション)関わり(高) x 解釈(高)役割に深く没入し、役割の要求に合わせて自己を根本的に変革する。役割への同一化と自己成長
Replication (レプリケーション)関わり(高) x 解釈(低)積極的に役割を遂行するが、既存の自分や過去のやり方を新しい役割に持ち込み、適合させる。効率的な適合と現状維持
Exploration (エクスプロレーション)関わり(低) x 解釈(高)行動は控えめにしつつ、観察と内省を通じて新しい役割の学習と自己変革の準備を進める。内省的な学習と将来への布石
Determination (ディターミネーション)関わり(低) x 解釈(低)変化を受動的に受け入れ、役割への関与も少なく、自己の変革を避ける。役割移行の回避と停滞

※1 Nicholson, N. (1984). A theory of work role transitions. Administrative science quarterly, 172-191.

ライフステージ別事例シート

1.Absorption(アブソープション)シート

【関わり:高 x 解釈:高】 役割に深く没入し、自己を根本的に変革する適応スタイル。最も創造的な成長をもたらしますが、燃え尽きのリスクも伴います。

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ライフステージ具体的な事例
就活生企業文化や業界の常識を短期間で徹底的に吸収し、学生時代とは全く異なるプロフェッショナルな態度とスキルを猛スピードで身につける。
成人前期(〜45歳)昇進後、従来の専門性やプレイスタイルを捨て、メンバー育成や部門戦略立案といった管理職の役割に自己を精力的に再定義する。
中年期(45〜65歳)役職定年後、新しいミッション(例:新規事業開発)に対し、過去の経験を捨ててゼロから学習し直し、新たな分野の専門家としてアイデンティティを構築する。

2.Replication(レプリケーション)シート

【関わり:高 x 解釈:低】 積極的に役割を遂行しますが、既存の自分や過去のやり方を新しい役割に持ち込み、適合させる適応スタイル。変化が少ない環境では効率的です。

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ライフステージ具体的な事例
就活生学生時代に成功した「個人で突き詰める」スタイルを、チームワークが必須のプロジェクトにそのまま持ち込み、単独行動を優先する。
成人前期(〜45歳)転職後、前職の成功体験に基づき業務を強引に踏襲しようとし、新しい組織のルールや企業文化に意図的に適合しようとしない。
中年期(45〜65歳)新しい人事制度やデジタル化の波に対し、「昔はこうだった」と主張し、過去の経験則に基づいたやり方を部下に押し付け、変化を拒否する。

3.Exploration(エクスプロレーション)シート

【関わり:低 x 解釈:高】 行動は控えめにしつつ、観察と内省を通じて学習と自己変革の準備を進める適応スタイル。短期的な成果は見えにくいですが、後の大きな飛躍の土台となります。

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ライフステージ具体的な事例
就活生内定期間中や入社後すぐ、積極的に目立たず、組織内の人間関係やルールを徹底的に観察し、「自分はどう振る舞うべきか」を深く考える。
成人前期(〜45歳)キャリアチェンジを視野に入れ、すぐに現職を辞めず、週末や業務外の時間で新しい分野の学び直しや資格取得を進め、自己変革の準備に注力する。
中年期(45〜65歳)定年後のセカンドキャリアに向け、すぐに具体的な行動を起こさず、複数の業界のセミナーや現役世代の動向を調査し、自己のスキルと価値を深く内省する。

4.Determination(ディターミネーション)シート

【関わり:低 x 解釈:低】 役割への関与が少なく、受動的に変化を受け入れ、自己の変革も避ける適応スタイル。適応が遅れ、キャリアの停滞を招きやすいパターンです。

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ライフステージ具体的な事例
就活生企業への帰属意識を持たず、配属された部署で指示待ちに徹し、最低限の業務をこなすこと以上に時間と労力を費やそうとしない。
成人前期(〜45歳)望まない異動や降格を命じられた際、新たな業務に積極的に関わろうとせず、役割への不満を抱えながら停滞し、自己を変える努力もしない。
中年期(45〜65歳)変化の激しい現代の職場において、自身の役割を最低限のルーティンワークに限定し、新しい技術や知識の習得を完全に放棄する。

セルフチェック

簡易診断チェックリストです

◆ Absorption【関わり:高 x 解釈:高】

  • 新しい役割に没頭しすぎて、自分らしさを失っていませんか?
  • 組織の期待に従うことでストレスや疲弊を感じていませんか?

◆ Replication【関わり:高 x 解釈:低】

  • 過去のやり方や価値観をそのまま新しい役割に持ち込んでいませんか?
  • 新しい環境に合わせる柔軟性が不足していませんか?

◆ Exploration【関わり:低 x 解釈:高】

  • 行動が控えめで、成果が見えにくいと感じていますか?
  • 新しい役割に距離を置き、観察や内省を重視していますか?

◆ Determination【関わり:低 x 解釈:低】

  • 新しい役割に自分の価値観やスタイルを強く持ち込もうとしていますか?
  • 組織との摩擦や抵抗を感じることがありますか?

Take-Home Message

適応スタイルは固定ではなく、状況やライフステージ、そして個人の意識的な選択によって変化します。重要なのは、「今の自分にとって、どのスタイルが最も成長につながるか」を見極め、状況に応じて意図的にスタイルを切り替えることです。

次回は、「キャリア理論09|ニコルソンの理論.3(Interpretation & Engagementの深掘り)」として、今回提示した「役割への関わり(Engagement)」と「自己の解釈(Interpretation)」という2つの軸がキャリア成長にどう影響するかを、理想的な組み合わせと避けるべき落とし穴という視点からご紹介します。

この記事を書いた人

プロフィール

May 2022~

HCC Japan LLC

CEO

April 2023~

Waseda University in School of Human Sciences (e-school)

Human Informatics and Cognitive Sciences

March 1996

Tokyo University Of Agriculture in Faculty of Bioindustry

April 1996〜March 2022

Eli Lilly Japan K.K. 

Sales & Marketing
Sales Manager
Sales Operator

October 2023~February 2025

Waseda University Senior High School

Teaching Assistant (Information Technology)

April 2025~ July 2025

Waseda University School of Human Sciences

Teaching Assistant (Collaborative Learning and the Learning Sciences)

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