キャリア理論06|バンデューラの理論.2


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「キャリア理論06」では、アルバート・バンデューラ(Albert Bandura, 1925-2021)の社会的認知理論(旧称:社会的学習理論)、特にその中核概念である自己効力感(Self-Efficacy)に焦点を当てて、全4回でお届けします。

キャリア理論06|バンデューラの理論.2(自己効力感を形成する4つの要因)

前回の振り返り

前回(バンデューラの理論.1)では、「自己効力感(Self-Efficacy)」とは何かをお届けしました。
自己効力感とは、「自分ならできる」という信念です。高い自己効力感を持つ人は、不確実なキャリアの分岐点でも積極的に挑戦し、粘り強く取り組みます。逆に、低い自己効力感を持つ人は、挑戦を避け、現状維持を選びがちです。では、このキャリアを切り拓く信念は、どのように形成されるのでしょうか? バンデューラは、自己効力感が生まれつきではなく、経験や環境によって意識的に形成できると述べています。その形成要因は、次の4つです。

達成経験(Mastery Experiences)

最も強力な要因は「達成経験(成功体験)」です。人は、自分でやり遂げた経験を通じて「できる」という確信を強めます。

心理メカニズム: 自分でやり遂げた経験は、「自分にはできる」ということの最も確かな証拠になります。そのため、4つの要因の中で最も強い影響力を持ちます。特に、「自分の努力と工夫で乗り越えた」と実感できる成功ほど、自信の核になります。反対に、成功を「運が良かっただけ」「課題が易しかったから」と受け止めると、自信にはつながりにくくなります。

ビジネスでの応用例:

  • 新しい業務に着手する際、小さなタスクに分け、段階的に成功体験を得る。
  • 管理職は、経験の浅い社員に、少しストレッチな小規模プロジェクトを任せ、成功体験を意図的に創出する。

注意点: 過大な課題にいきなり取り組む、またはいきなり与えると、失敗体験が積み重なり、自己効力感は大きく低下します。一方で、簡単な成功ばかりでも注意が必要です。バンデューラは、簡単な成功しか経験していないと、すぐに結果が出ることを期待するようになり、失敗に直面したときに挫けやすくなると指摘しています。くじけにくい自己効力感を育てるには、「少し頑張れば届く」課題に取り組み、粘り強い努力で困難を乗り越える経験を積むことが大切です。

代理経験(Vicarious Experiences)

次の要因として、他人の成功を見て「自分にもできる」と思えることです。特に、自分と似た立場の人の成功は強い影響を与えます。

心理メカニズム: 「社会的比較」によって、自分の可能性を再評価する機会となります。ロールモデルの存在が、「挑戦の現実感」を高め、行動への動機付けとなります。

ビジネスでの応用例:

  • 社内で成功事例を共有する「キャリアストーリーセッション」などで、自分と近い経歴の社員から情報を得る。
  • メンター制度で、類似するキャリアパスを歩んだ先輩と接点を持たせ、成功の道のりを具体的にイメージさせる。

注意点: 比較対象が遠すぎると逆効果となり、「あの人は特別だから」と諦めにつながる場合があります。

言語的説得(Verbal Persuasion)

「あなたならできる」という他者からの言葉の力を得ることです。信頼できる人からの励ましやフィードバックは、自己効力感を高めます。

心理メカニズム: 言葉で「期待」を伝え、行動のモチベーションを引き出します。特に、上司やメンターなど影響力のある人の言葉は、困難に直面した際の心の支えとなり強い効果を持ちます。

ビジネスでの応用例:

  • 上司より「君ならできる。なぜなら、あの時この課題を解決した経験があるからだ」と具体的な理由を添えて伝える。
  • 1on1などで「過去の成功体験」を振り返り(リフレクション)ながら自信を強化する。

注意点: 根拠のない励ましは逆効果となり、「口だけ」と感じると信頼を損ないます。また、実際にやってみてうまくいかなければ、かえって自信を失わせてしまいます。バンデューラは、言葉による励ましだけでは効果が長続きしにくく、優れた支援者は言葉をかけるだけでなく、成功しやすい課題や環境を整えることにも気を配ると指摘しています。励ましは、達成経験と組み合わせることで力を発揮します。

生理的・情緒的状態(Physiological & Emotional States)

心と体のコンディションが「できる感覚」に影響を及ぼします。例えば、緊張や不安が強い環境下の場合、「無理だ」と感じやすくなります。

心理メカニズム: 人は、緊張・不安・疲労といった心と体の反応を手がかりに、「自分はできそうか」を判断します。バンデューラは、ここで大切なのは反応の強さそのものではなく、それを「どう解釈するか」だと指摘しています。同じ胸の高鳴りでも、自己効力感の高い人は「気合いが入ってきた」と力に変え、自信のない人は「やっぱり無理だ」というサインと受け取ります。過度なストレスや疲労を減らすことに加えて、心身の反応の受け止め方を見直すことが、「挑戦意欲」を高める土台となります。

ビジネスでの応用例:

  • プレゼン前に深呼吸で呼吸を整えたり、軽い運動で緊張を和らげるなど、心身の状態を意図的にコントロールする。
  • プレゼン前の胸の高鳴りを「失敗のサイン」ではなく、「準備ができ、集中モードに入った証拠」と捉え直す。
  • 睡眠、食事、運動など生活リズムを整え、心身のベースラインを維持する。

注意点: 慢性的なストレスや過労は、自己効力感を長期的に低下させる主要因となります。

Take-Home Message

自己効力感は、偶然に任せるものではありません。「小さな成功から始めて、努力で乗り越えた経験へとつなげる」「ロールモデルの存在」「根拠のある励ましの言葉を力にかえる」「心身のコンディションを整え、その受け止め方を見直す」、この4つを意識的に積み重ねることで、キャリアのエンジンは確実に強化されます。

もし今、「新しい役割に挑戦する勇気が出ない」、「新しい仕事やスキルアップに不安を感じる」などが生じていれば、この4つの要因を一つずつ整えることから始めてください。

次回は、「キャリア理論06|バンデューラの理論.3(自己効力感とキャリア意思決定・行動)」として、なぜ自己効力感がキャリアの分岐点を決めるのか?を、実際の意思決定シーンを交えて深掘りしていきます。

この記事を書いた人

プロフィール

May 2022~

HCC Japan LLC

CEO

April 2023~

Waseda University in School of Human Sciences (e-school)

Human Informatics and Cognitive Sciences

March 1996

Tokyo University Of Agriculture in Faculty of Bioindustry

April 1996〜March 2022

Eli Lilly Japan K.K. 

Sales & Marketing
Sales Manager
Sales Operator

October 2023~February 2025

Waseda University Senior High School

Teaching Assistant (Information Technology)

April 2025~ July 2025

Waseda University School of Human Sciences

Teaching Assistant (Collaborative Learning and the Learning Sciences)

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