キャリア理論12|ハンセンの理論.3


キャリア理論12 ・ 全5回の第3回
2026-04-16 ・ 読了目安 約9分 ・ セルフワーク付き

この回でわかること

  • 転機のあとに感じる違和感を、「役割(ロール)」の視点から読み解く
  • 役割どうしが「対立」して見えるのはなぜか
  • 「バランス」ではなく「調和(統合)」という、ハンセンの考え方
この回で扱うILPの重要課題② 人生を意味ある全体の中に織り込む③ 家族と仕事をつなぐ
前回(第2回)からのつながりを読む

第2回では、転機を「人生のキルトの組み替え」として見てきました。転機によって人生のキルトが動き始めたあと、多くの人が次に出会うのが、役割どうしの「噛み合わなさ」です。

01転機のあとに現れる、あの違和感

こんな感覚はありませんか?

  • 仕事と家庭が、ぶつかっている気がする
  • 学びたい気持ちはあるのに、時間も余力も足りない
  • 余暇や休息が、気づけばすべて後回しになっている
  • どれも大切なのに、「全部は守れない」と感じてしまう

これらは混乱でも、迷いでもありません。ハンセンの視点に立つと、その違和感は、人生の役割どうしが今の配置のままでは噛み合わなくなっているというメッセージです。

自分の中で何かが壊れた
→
役割の配置を見直す
時期に入った

02ハンセンが扱うのは「役割(ロール)」の世界

ハンセンは、人生を単なる出来事の連続ではなく、複数の役割を生きるプロセスとして捉えました。私たちは日々、いくつもの役割を行き来しながら生きています。

Learning学ぶ人
Labor働く人
Love支え、支えられる人
Leisure休み、楽しむ人

これらは「どれか一つを選べばよい」ものではなく、同時に存在し、互いに影響し合っています。ハンセンが見ていたのは、そうした役割どうしのつながりでした。

学びが、仕事を輝かせる 仕事が、大切な人を支える 余暇が、回復力を高める 愛が、すべてのLをつなぎ、意味づける Learning学ぶ人 Labor働く人 Love支え合う人 Leisure休み楽しむ人
  • 学びが、仕事を輝かせる
  • 仕事が、家庭や大切な人を支える
  • 余暇が、心身の回復力を高める
  • 愛が、すべてのLをつなぎ、意味づける

これは、ILPの重要課題②「人生を意味ある全体の中に織り込む」にあたる視点です。

03なぜ役割は「対立」してしまうのか?

転機の最中、人生のキルトはまだ仮縫いの状態です。布の位置が定まらず、一時的にぎこちなく、動きづらくなります。

働く布が広がりすぎて、学びの布が押し出される
家庭の布が重くなり、余暇の布が縫い込めなくなる
どの布も大切だからこそ、引っ張り合いが起きる

すべてが大切だからこそ、
役割どうしが対立して見える。

ハンセンの視点に立つと、この状態は「失敗」や「バランスの崩壊」ではなく、次の編み直しへ進むための自然なプロセスとして捉えることができます。役割の対立は停滞のサインではなく、変化への準備が整い始めたことを伝える、前向きな兆しです。

04「バランス」ではなく「調和」

多くのキャリア論では「ワーク・ライフ・バランス」という言葉が使われてきました。ただ、ハンセンの考え方に照らすと、この発想だけでは人生の複雑さを捉えきれないことが見えてきます。

WORK-LIFE BALANCE

バランス:配分の発想

仕事と私生活をうまく配分し、均等に分ける。いわば50:50の配分を目指す考え方。けれども人生は、常に均等に配れるものではありません。

INTEGRATION

調和:つなぐ発想

時間を均等に配ることよりも、役割どうしを「つなぐ」こと=統合(Integration)。役割どうしが競争するのではなく、支え合う関係へと編み変えられている状態です。

調和とは、すべてを同じ比率で保つことではなく、
互いが機能的につながり、全体として生きやすくなること。

③

ILPの重要課題③「家族と仕事をつなぐ」

性別による役割の固定観念にとらわれず、男性も女性も仕事と家庭の両方を担い合うこと。そして、誰もが次の2つを育てていくこと。ハンセンは、その大切さを説きました。

自立(self-sufficiency)つながり(connectedness)

そこには、ハンセンが長く取り組んできた性別にとらわれないキャリア教育(第1回で触れた「BORN FREE」)の歩みが息づいています。

05役割を「編み直す」ための問い

役割を「対立」から「調和」へと編み変えるために、次の問いを自分に向けてみましょう。

  1. この役割は、他の役割をどう支えているだろうか?
  2. 一方で、この役割が私を疲弊させてはいないだろうか?
  3. 切り離すのではなく、つなげる道はないだろうか?
大切なのは、役割を減らす諦める一つに絞ることではなく、役割どうしの関係性を見直すことです。
役割は「重荷」
→
人生を支える「資源」

支え合いの関係を見出したとき、役割は姿を変えます

06調和とは、今の自分に合った「編み方」を見つけること

確かめる 縫い直す 試す 整える 編み直し続ける プロセス

ハンセンは、すべての人に同じ形の調和(統合)があるとは考えませんでした。次のようなことが変われば、最適な模様も変わっていきます。

  • 人生の段階
  • 家族や人間関係の状況
  • 心身の健康状態
  • 大切にしたい価値観

その時々の自分に合わせて、配置を確かめ、縫い直し、試し、また整える。その繰り返しそのものが、人生を生きるプロセスです。

調和とは、完成形ではなく、編み直し続けることを許されたプロセス。
TAKE-HOME MESSAGE

役割は、対立するためにあるのではなく、
響き合うためにある

  • 役割は、切り捨てるものではない
  • 役割は、競争させるものでもない
  • 役割は、順番に優先されるためだけにあるのでもない
  • バランスとは配分の問題、調和とは関係性の問題
  • 調和に「完成形」はない。今の自分に合った編み方を、何度でも見直していい

役割の葛藤は、あなたの人生が前に進もうとしている証。対立ではなく調和へと編み変えていくとき、あなたの人生のキルトは、よりしなやかに、より強く、よりあなたらしい模様を帯びていきます。

WORKあなたの「役割」は、どんな関係性を結んでいるだろう?

正解はありません。一行ずつ、今の自分に浮かぶ言葉を書くだけで十分です。

Q1

いま、あなたが生きている主な「役割」は何ですか?

  • 学ぶ人(例:資格取得中/学び直しへの関心 など)
  • 働く人(例:会社員/管理職/フリーランス など)
  • 支え、支えられる人(例:親/子/パートナー/ケアする側 など)
  • 休み、楽しむ人(例:趣味人/休養が必要な自分 など)
役割に「良い/悪い」はありません。事実として存在している役割を、そのまま書くことが大切です。
Q2

その役割どうしは、いま「どんな関係」にありますか?

  • 支え合っている役割はどれですか?
  • どちらかが、もう一方を消耗させてはいませんか?
  • 引っ張り合っている組み合わせはありませんか?
「均等かどうか」は考えなくてかまいません。役割どうしが競争しているのか、支え合い始めているのかに目を向けます。
Q3

もし「一針だけ」編み直すとしたら、どの役割を、どう扱いますか?

  • 少し休息を足す
  • 学びの時間を、短くても取り戻す
  • 家族との関わり方を、少しだけ変える
  • 仕事の境界線を、ほんの少し引き直す
調和は「完成」させるものではありません。小さな編み直しを許すことそのものが、調和への一歩です。
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参考文献

Hansen, L. S. (1997). Integrative Life Planning: Critical Tasks for Career Development and Changing Life Patterns. San Francisco: Jossey-Bass.
Hansen, L. S. (2001). Integrating work, family, and community through holistic life planning. The Career Development Quarterly, 49(3), 261-274.
Skovholt, T. S., Hage, S. M., Kachgal, M. M., & Gama, E. P. (2007). An interview with Sunny Hansen: Pioneer and innovator in counseling and career development. Journal of Counseling & Development, 85(2), 245-253.


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