キャリア理論12|ハンセンの理論.4


キャリア理論12 ・ 全5回の第4回
2026-04-23 ・ 読了目安 約9分 ・ セルフワーク付き

この回でわかること

  • 役割の調和が「ゴール」ではなく「出発点」である理由
  • ハンセンが考えた「社会の中のキャリア」と「善き人生(Good Life)」
  • 完成しないからこそ、人生のキルトは編み直し続けられるということ
この回で扱うILPの重要課題:① なすべき仕事を見つける④ 多元性と包括性⑤ スピリチュアリティと人生の目的
前回(第3回)からのつながりを読む

第3回では、仕事・家庭・学び・余暇といった複数の役割が、対立ではなく「調和」へと編み変えられることを見てきました。役割が少しずつ噛み合い始めると、人は静かな「生きやすさ」を取り戻していきます。

01役割の調和は、個人の中で完結しない

調和は「ゴール」ではなく「出発点」

私たちはどれほど内面が整い、生活が調和してきたとしても、完全に「個人の中だけ」で生きることはできない存在です。だからハンセンの理論は、「自分が楽になること」だけで完結しません。

役割の調和第3回で見てきたこと
→
出発点次の問いへ進む
→
世界とのつながり他者・社会・世界

「その調和は、どこへ向かうのか?」

02ハンセンが見ていたのは「社会の中のキャリア」

ハンセンは、キャリアを個人の満足や成功のためだけの設計図とは考えませんでした。私たちは、どの瞬間も「社会の外」で生きているわけではないからです。

あなた 家族 職場 地域社会 次の世代

私たちは常に、社会の中で役割を生きています。

  • 家族の一員として
  • 職場の一員として
  • 地域社会の一員として
  • 次の世代とつながる存在として

「あなたのキャリアは、
誰と、どんな世界につながっていますか?」

「もっと社会貢献せよ」という呼びかけではなく、役割の調和が始まったとき、人が自然と向き合うようになる問いです。
自分のための選択
→
世界の中で生きるための営み

ハンセンはILPの重要課題④「多元性(多様性)と包括性を大切にする」を掲げ、性別や文化、民族などの違いを尊重し、さまざまな背景をもつ人々とともに生きる社会の中で、自分のキャリアを考えることを求めました。

03「善き人生(Good Life)」という視点

ハンセンは、キャリアの選択を「自分の満足」のためだけでなく、「共同体や社会の共通善(common good)」のためにも行うことを大切にしました。この記事では、こうした問いを「善き人生(Good Life)」という言葉で表します。

ここで言う「善さ」ではないもの

  • 評価が高い
  • 成功している
  • 収入が多い

ハンセンが重視したこと

  • 自分の能力や価値を、社会の中でどう使っているか
  • 他者や次の世代に、どんな影響を残していくか
  • 不完全な世界の中で、どう誠実に生きているか
GOOD LIFE

「何を持っているか」ではなく、「どう関わり、どう生きているか」。
自分の人生が「自分だけのためで終わっていない」と感じられる生き方です。

1なすべき仕事を見つける環境を守ること、貧困や暴力を減らすことなど、社会が必要としている仕事のことです。
5スピリチュアリティと人生の目的宗教に限らず、自分は何のために生きるのかという人生の意味や目的を問うことです。

04役割の調和は「市民としての役割」へひらかれる

役割が調和すると、人は自然と視野を外へ向け始めます。それは「こうあるべきだ」という使命感ではなく、調和が生んだ自然な余白から、静かに立ち上がってくる感覚です。その先に見えてくるのが「市民としての役割(Citizen role)」です。

EXAMPLE 1
選挙に参加すること
EXAMPLE 2
地域活動に関わること
EXAMPLE 3
次の世代に、自分の経験を語ること
社会 との布

大きな行動である必要はありません。「自分の生き方が、どこかで社会とつながっている」と感じられること。家庭の布、仕事の布に加えて、社会とつながる一枚の布が縫い込まれたとき、人生のキルトはさらに奥行きを持ち始めます。

「市民」は、スーパー(キャリア理論04)がライフ・キャリア・レインボーで示した人生の役割のひとつとして知られています。ハンセンは社会とのつながりを、地域社会から、環境や貧困といった地球規模の課題にまで広げて捉えました(課題①)。

05キャリアとは「世界と誠実に関わり続ける営み」

ハンセンにとってキャリアとは、上に行くための設計や、競争に勝つための戦略ではありませんでした。それらを否定するわけではありませんが、ハンセンの視線は、もっと広く、もっと深いところに向いていました。だからILPは、単なるキャリア計画では終わりません。

計画であると同時に
生き方であり
日々の姿勢であり
倫理世界への向き合い方

完成しないからこそ、意味がある

善き人生に、完成形はありません。ハンセンの考え方に沿えば、この不完全さは「未熟さ」や「失敗」ではなく、人が変化の中を生きている証と捉えることができます。

役割を問い直す 優先順位を見直す 編み方を変える 人生のキルト
  • 社会は、常に変わり続ける
  • 自分自身も、時間とともに変わっていく
  • できることも、担う役割の重さも、少しずつ変化する
  • 完成しないからこそ、その都度、選び直す余地がある。
TAKE-HOME MESSAGE

役割の調和は、
「世界へひらかれる地点」に到達する

  • キャリアは、個人の満足だけで終わらない
  • 役割が調和すると、人は自然と他者や社会へ視野を広げていく
  • 善き人生(Good Life)とは、自分の人生が社会や誰かとつながっていると感じられる状態
  • そこに完成形はなく、編み直し続けることそのものに意味がある

あなたの人生のキルトは、あなただけのものではありません。世界と交わり、誰かと重なり合うことで、その模様は、より深く、より豊かになっていきます。

WORKあなたの人生のキルトは、世界のどこへひらかれているだろう?

無理に立派な答えを出す必要はありません。一行ずつで構いません。今のあなたに浮かぶ言葉を書き留めてみてください。

Q1

あなたの役割の中で、すでに「社会」とつながっているものは何ですか?

仕事、家庭、学び、余暇。どの役割が、すでに社会や誰かとつながっていますか?

  • 誰かのために行っている仕事
  • 家族や身近な人を支える日々の関わり
  • 知識や経験を共有している場面
  • 地域・コミュニティ・オンラインでの関与

「特別な社会貢献」でなくて構いません。日常の中にあるつながりを探してください。

Q2

そのつながりは、あなたにとって「重荷」ですか?それとも「意味」でしょうか?

その役割が、あなたにどんな感覚をもたらしているかを考えてみます。

  • 義務感や我慢として感じているか
  • 大変さはあっても、意味を感じているか
  • 誰かとの関係の中で「自分らしさ」を感じられているか

善き人生とは、すべてが楽な人生ではありません。しかし「意味を感じられる関わり」がそこにあります。

Q3

もし、もう一枚布を足すとしたら、それはどんな「世界との関わり」でしょうか?

最後に、未来への問いです。

  • 誰かに経験を渡す
  • 一度離れていた活動に戻る
  • 小さく社会と接点を持つ
  • 世界の出来事に、ほんの少し関心を向ける

大きな決断でなくて構いません。今の自分に無理のないかたちで、世界ともう一度つながることを想像してください。

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参考文献

Hansen, L. S. (1997). Integrative Life Planning: Critical Tasks for Career Development and Changing Life Patterns. Jossey-Bass.
Hansen, L. S. (2001). Integrating work, family, and community through holistic life planning. The Career Development Quarterly, 49(3), 261-274.
Skovholt, T. S., Hage, S. M., Kachgal, M. M., & Gama, E. P. (2007). An interview with Sunny Hansen: Pioneer and innovator in counseling and career development. Journal of Counseling & Development, 85(2), 245-253.
Super, D. E. (1980). A life-span, life-space approach to career development. Journal of Vocational Behavior, 16, 282-298.


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