この回でわかること
- ILPは、人生を一気に変える「大計画」ではないということ
- 4つのLを眺め、「一針だけ」動かしてみる実践のしかた
- 月に一度の「人生キルト点検」と、人生後半におけるILP
01ILPは「人生を作り替える計画」ではない
理論を追いながら、こんな問いが浮かんできたのではないでしょうか。
「考え方は分かった。
では、私は明日から何をすればいいのだろう?」
ただし、その前に確認しておきたい大切な前提があります。
ILPは、人生を一気に変える「大計画」ではありません。統合とは、理想の人生を完成させることでも、完璧な設計図を描くことでもないのです。
人生は、何度でも編み直してよい。
しかも、それは小さな一針から始められる。
統合とは、完成形を一度でつくることではなく、気づき、試し、整え直すことを繰り返していく姿勢そのものです。今回は、今日の生活の中でほんの少しだけ編み方を変えてみる、やさしい実践編です。
02これまでの4回と「6つの重要課題」
第1〜4回は、ハンセンがILPの土台に置いた「6つの重要課題」と、次のように対応しています。
- 1変化するグローバルな状況の中で、なすべき仕事を見つける
- 2人生を意味ある全体の中に織り込む
- 3家族と仕事をつなぐ
- 4多元性(多様性)と包括性を大切にする
- 5スピリチュアリティと人生の目的を探求する
- 6個人の転機と組織の変化をマネジメントする
タグを押すと、その課題を扱った回へ移動します。今回の実践編では、日々の暮らしに引き寄せやすい4つのLを手がかりに、ILPを生活の中で生かす方法を考えます。
03まずは「人生の4つのL」を眺める
ILPの実践で最初にやることは、驚くほどシンプルです。4つのLを、短い言葉で書き出してみてください。紙でも、スマホのメモでも構いません。
学び Learning
- 最近、学びを感じたことはありますか?
- 「少し気になっているけれど、後回しにしていること」はありませんか?
働く Labor
- 今の働き方で、いちばんエネルギーを使っていることは何でしょう?
- この働き方は、「今の自分」に合っていると感じますか?
愛し・支え合う Love
- 最近、つながりを感じた人や出来事はありますか?
- 支える側と、支えられる側。どちらかに偏りすぎていないでしょうか?
余暇・休息 Leisure
- 完全な休息がとれている時間はありますか?
- 「休んでいるのに疲れが取れない」と感じることはありませんか?
点数をつける必要も、「足りない」と評価する必要もありません。今の人生がどんな配置になっているかを知るだけで、ILPはすでに始まっています。
04ILP実践の核心は「一針だけ」
次のステップは、たった一つ。4つのLの中から、「一針だけ動かせそうなところ」を選ぶことです。たとえば、こんな「一針」があります。
だけ
週に10分だけ、本や記事を開く
どれも人生を変える決断ではなく、明日から、あるいは今日からできることです。
- 全体を整えようとしない
- 理想の人生像を作ろうとしない
- 続けることを、最初から目標にしない
「全部を縫い直す」ことではなく、
「一か所、そっと針を入れてみる」こと。
一針入れてみて、違和感があれば、また位置を変えればいい。
それが、統合的人生設計(ILP)の実践の核心です。
05うまくいかなくていい
実践してみると、きっとこんなことが起こります。ここでやめてしまう必要はありません。
ILPは、成功や達成を積み重ねる方法ではありません。
↻ この循環自体が「統合(Integration)」なのです。
06月に一度だけの「人生キルト点検」
ILPを続けるために必要なのは、毎日の努力ではありません。ときどき立ち止まり、人生の配置を静かに眺め直す時間を持つこと。そのためにおすすめなのが、月に一度だけの「人生キルト点検」です。
点検は、これを確認することではありません
- 目標を達成できたか
- 予定どおり進んでいるか
- もっと頑張るべきか
ILPにおける点検は、管理でも評価でもなく、対話
自分の人生に、そっと問いかけてみる時間。
- 1今月、いちばん大きくなっていたLはどれだっただろう?意識せずとも、自然に広がっていた布が必ずあります。
- 2逆に、縮みすぎていたLはなかっただろうか?忙しさや出来事の中、いつの間にか端に追いやられていた布はありませんでしたか。
- 3来月、もう一針動かすとしたら、どこだろう?ほんの5分、ほんの一言、ほんの一度の立ち止まり。それくらいで十分です。
スライダーで、今月のキルトの模様を眺めてみましょう。
呼吸するように、
配置を確かめ、整え直す。
07ILPは「人生後半」のためにもある
ILPは、若い人のキャリア計画のためだけの理論ではありません。ハンセンは、ILPを、男女を問わず、青年期から退職後まで人生のあらゆる段階で使える枠組みとして描き、退職後に自分の力を地域へ還元していくことにも目を向けていました。
人生後半の転機は、何かを“始めなければならない”局面ではありません。それまで無意識に成立していた配置が、少しずつ合わなくなってくる。そんな静かな違和感から始まることが多いのです。
生き方を「編み直し続けてよい」という許可を与える理論。
これまでの配置を否定する必要も、一気に変える必要もありません。これまでの人生を尊重したまま、今の自分に合う編み方へ、少しずつ調整していく。その姿勢こそが、統合的人生設計の本質なのです。
統合は、小さな実践から始まる
- ILPは完璧な人生設計ではない
- 4つのLを見て、一針だけ動かせばいい
- うまくいかなくても、それは統合の一部
- 編み直し続ける姿勢そのものが、善き人生へとつながっていく
人生のキルトを編む手は、いつでもあなた自身の中にあります。大きく変えなくていい。正解を決めなくていい。今日の一針が、次の模様の入口になります。
WORK今日から始める「ILPの一歩」
最後に、ほんの数分だけ、今日の自分に問いかけてみてください。一行ずつで、十分です。
今の自分にとって、「少しだけ余地がありそうなL」はどれですか?
足りないLではなく、「少し手を伸ばせそう」なLを選んでください。
そこに、今週「一針だけ」足すとしたら、どんなことができそうですか?
5分だけ、一度だけ、小さな行動で。それ以上は考えなくて大丈夫です。
それは、あなたにとって負担ではなく、少し楽しめそうなことですか?
楽しめそうでなければ、針の位置を変えればいいだけです。ILPは「続けること」より、「対話をやめないこと」を大切にします。
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ハンセンの理論 全5回のまとめ
ハンセンが示した統合的人生設計(ILP)は、キャリアを「仕事の選択」としてではなく、「人生全体の配置」として捉え直す理論です。学び・働くこと・愛し支え合うこと・余暇といった複数の役割は、人生の状況に応じて編み直されながら調和へと向かっていきます。
その調和は、やがて他者や社会、世界へとひらかれ、「善き人生(Good Life)とは何か」という問いへとつながっていきます。そしてILPの実践は、大きな人生計画ではなく、今日からの「一針」を重ねていく営みです。
参考文献
Hansen, L. S. (1997). Integrative Life Planning: Critical Tasks for Career Development and Changing Life Patterns. San Francisco: Jossey-Bass.
Hansen, L. S. (2001). Integrating work, family, and community through holistic life planning. The Career Development Quarterly, 49(3), 261-274.
Skovholt, T. S., Hage, S. M., Kachgal, M. M., & Gama, E. P. (2007). An interview with Sunny Hansen: Pioneer and innovator in counseling and career development. Journal of Counseling & Development, 85(2), 245-253.