歴史人✖️キャリア理論|横井 弘04「重なり合う人生」
偉人たちの人生に、次の一歩のヒントを
歴史人をキャリア理論で読み解く文学家・作詞家 横井 弘編 第4回
歴史に名を残した人々も、私たちと同じように悩み、迷い、そして選択しながら人生を歩んでいました。このシリーズでは、キャリア理論というレンズを通して、歴史人の人生を読み解きます。
過去の人物を知ることは、未来の自分を知ること。彼ら、彼女たちの生き方の中には、今を生きる私たちのキャリアや人生を考えるヒントが、数多く隠されています。

文学家・作詞家 横井 弘編
新たに読み解く歴史人は、全4回でお届けする「文学家・作詞家 横井弘」。
戦争によってすべてを焼かれ、帰る家さえ失った一人の青年が、なぜその焼け跡から『あざみの歌』をはじめとする数々の名作を生み出すことができたのでしょうか。
失ったからこそ見えたもの。遠回りだったからこそ辿り着けたもの。偶然を味方にしながら自分だけの道を切り拓いていったそのキャリアを、これから4回にわたって読み解いていきます。
本シリーズは、歴史人の生涯を、キャリア理論というレンズを通して見つめ直す試みです。人物の生き方や理論との結びつきについては、HCCジャパン合同会社による独自の視点と考察を含みます。
また本企画は、「偉人たちの人生に、次の一歩のヒントを」を掲げ、歴史人物や文学家の魅力を発信する「いらすとすてーしょん」とのコラボレーション企画としてお届けします。
いらすとすてーしょん「文学の部屋|横井 弘」 illuststation196.com第4回 重なり合う人生人生は一つの歌だけではできていない
『あざみの歌』の作詞家のその先に

横井 弘 Hiroshi Yokoi 東京都出身 1926-2015
@いらすとすてーしょん
横井弘という名前を聞いて、多くの人がまず思い浮かべるのは『あざみの歌』でしょう。戦後の人々の心を励まし、世代を超えて歌い継がれてきた名曲。その作詞家として、横井弘は日本の歌謡史に確かな足跡を残しました。しかし、一人の人生は、一つの代表作だけで語り尽くせるものでしょうか。
横井弘は、『あざみの歌』の作詞家である前に、一人の人間でした。
東京で青春時代を過ごした少年
戦争によって人生を大きく揺さぶられた青年
下諏訪で再出発を誓った詩人
数多くの歌詞を書き続けた作詞家
家族とともに歳月を重ねた生活者
そして晩年まで言葉を愛し続けた表現者
それぞれは別々の顔のように見えます。しかし実際には、そのすべてが重なり合いながら、一人の横井弘という人生を形づくっていました。
最終回では、スーパーの「ライフ・スパン理論」を手がかりに、横井弘の88年の人生を振り返ります。成功や肩書だけでは見えてこない、「人生そのものとしてのキャリア」を考えていきましょう。
背景の理論 スーパーの「ライフ・スパン理論」
キャリアという言葉を聞くと、多くの人は仕事や職歴を思い浮かべます。しかし、アメリカのキャリア理論家ドナルド・スーパー(Donald E. Super)は、キャリアをもっと広い視点で捉えました。
スーパーは、「キャリアとは、生涯を通じて果たすさまざまな役割の総体である」と考えました。人は人生の中で、子ども、学生、職業人、配偶者、親、家庭人、市民、余暇を楽しむ個人など、多くの役割を担います。そして、それらの役割は人生の各段階(ライフ・スパン)の中で変化し、重なり合っていきます。スーパーはその関係性を「ライフキャリア・レインボー」という虹の図で表しました。つまりキャリアとは、仕事だけで構成されるものではありません。
家族との時間も。
学びも。
地域との関わりも。
趣味や余暇も。
そのすべてが、その人のキャリアを形づくる大切な要素なのです。
横井弘とライフ・スパン理論
横井弘の人生を、スーパーの視点から見てみましょう。
まず彼は、戦争を経験した一人の青年でした。東京大空襲によって家を失い、召集され、敗戦を迎えるという激動の時代を生きています。そして疎開先の下諏訪では、詩と向き合う文学青年としての役割が強まりました。そこで生まれた『あざみの歌』は、その後の人生の出発点となります。やがて作詞家として活動を始めると、『哀愁列車』『おさらば東京』『川は流れる』『下町の太陽』など、多くの作品を世に送り出していきました。しかし、横井弘の人生は「作詞家」という役割だけで成り立っていたわけではありません。家族とともに暮らし、日々の生活を送り、一人の生活者として歳月を重ねていきました。また、戦争や敗戦を経験した世代としての記憶も、生涯を通して彼の内側に存在し続けたはずです。
それらは互いに切り離されていたのではありません。むしろ、それぞれの経験や役割が重なり合い、影響し合いながら、横井弘という人生を形づくっていたのです。私たちはつい、「代表作」や「肩書」に目を向けてしまいます。しかしライフ・スパン理論の視点から見ると、『あざみの歌』の作詞家という顔は、横井弘という人生の一部分に過ぎません。その背後には、さまざまな役割と経験が折り重なった、豊かな人生の全体像が広がっているのです。
Take Home Message
私たちはキャリアという言葉を聞くと、「どんな会社で働くか」「どんな仕事をしているか」「どれだけ成功したか」といった成果に意識を向けがちです。しかしスーパーが教えてくれるのは、「キャリアとは仕事だけではない」ということです。
家族との時間。
友人との関係。
地域とのつながり。
趣味や学び。
人生の中で経験してきた喜びや苦しみ。
それらすべてが、その人らしいキャリアをつくっています。横井弘の人生もまた、一つの歌や一つの肩書だけでできていたわけではありませんでした。さまざまな役割や経験が重なり合ったからこそ、人々の心に深く響く言葉を生み出すことができたのです。
あなたの人生も同じです。今担っている役割の一つ一つが、あなた自身の人生という作品を形づくっているのです。
シリーズの結びに
全4回にわたって読み解いてきた横井弘の人生は、決して順風満帆なものではありませんでした。
戦争による大きな喪失がありました。
先の見えない不安がありました。
結果が見えないまま努力を続ける時間もありました。
それでも彼は、言葉を書くことをやめませんでした。
焼け跡の中で残されたものを見つめる
シュロスバーグの「4Sモデル」偶然の出会いを未来への機会へ変える
クランボルツの「計画的偶発性理論」自分らしい軸を持ち続ける
シャインの「キャリア・アンカー」人生のさまざまな役割を重ねながら歩み続ける
スーパーの「ライフ・スパン理論」だからこそ私たちは今も、横井弘の人生から多くのことを学ぶことができます。
人生は思い通りには進みません。予期しない出来事に翻弄されることもあります。けれども、自分に残されたものを見つめ、自分らしい軸を持ちながら歩み続けることはできます。
キャリアとは、成功だけの物語ではありません。失敗も、遠回りも、偶然も、出会いも、すべてを含めた人生そのものです。
横井弘が残した言葉のように、私たち一人ひとりの人生もまた、さまざまな経験が重なり合って紡がれていく、一つの物語なのです。
豊臣秀長編
次回の「歴史人✖️キャリア理論」は、豊臣秀長編。時代を築いた偉人たちの裏には、常に「最高の選択」と「葛藤」がありました。そこで、NHK大河ドラマでも大きな話題を集める豊臣兄弟より、豊臣秀吉の弟「豊臣秀長」の生涯を、5つのキャリア理論を通して紐解いていきます。
農民から天下人の右腕へ。激変する時代の中で、彼はなぜ膨大な組織をまとめ、諸大名から深く信頼される「最高の補佐役」となり得たのか。
- 01クランボルツの「計画的偶発性理論」 — 農民から武将へ、予期せぬ転機をチャンスに変える 公開日2026年10月1日
- 02ホールの「プロティアン・キャリア」 — 変化の時代をしなやかに生き抜く適応力 公開日2026年10月8日
- 03シャインの「キャリア・アンカー」 — 最高権力者の影で磨いた揺るぎない内面の軸 公開日2026年10月15日
- 04スーパーの「ライフ・キャリア・レインボー」 — 多元的な役割の重なりが支えた天下の基盤 公開日2026年10月22日
- 05シュロスバーグの「4Sモデル」 — 激動の時代を乗り越えるリソースの総動員 公開日2026年10月29日
激動の現代社会を生きる私たちに、秀長の歩みは「自律的なキャリアと適応力」の大きなヒントがありそうです。
この記事を書いた人
HCC Japan LLC.
代表社員
Waseda University, School of Human Sciences (e-school)
Human Informatics and Cognitive Sciences
2025年4月〜7月
Tokyo University of Agriculture, Faculty of Bioindustry
Eli Lilly Japan K.K.
Sales & Marketing / Sales Manager / Sales Operator
国家資格キャリアコンサルタント (National Licensed Career Consultant) 登録番号25072525
医療経営士 (Medical Management Specialist Third Grade) 3級認定登録番号31310119010282
